刺身のつまは、祖先伝来の抗菌の知恵
スーパーなどで、刺身セットや握りずしセットを買うと、千切りダイコンやシソの葉がついています。場合によっては小さな菊が添えられていることもあります。これらは単なる飾りではなく、抗菌作用があります。
小さな菊は栽培された食用菊で、花びらを醬油に浮かべて香りと食感を楽しみます。花には毒素を分解する酵素が含まれているのです。ほかにつまとして使われるワサビ、ニンニク、大根、ニンジン、青じそ、シソの実、花穂「かすい(咲きかけのシソの花)」、タデ、ハマボウフウ(セリ科)、パセリ、レモンなどにも抗菌作用や臭み消しなどがあります。
折詰弁当につけられている緑のプラスチックは、ハランの葉の代わりです。ハランや笹の葉(笹寿司)、柿の葉(柿の葉寿司)には防腐効果が、柏餅の葉には、香りづけ、抗菌、保湿などの効果があります。
江戸時代中期以降、江戸の街にはファストフードの屋台見世(店)がたくさんありました。「二八(そば)」、「天婦羅」、「寿し」などと大きく書かれた屋台店を目当てに江戸っ子がやってきました。
屋台には握り寿司がずらっと並べられ、ガリも添えられていました。せっかちな江戸っ子は寿司を食べると、指がべたべたするので、ガリをさわって拭いたといいます。寿司を食べ終わったら、そのガリも食べました。ガリをつくる生姜と食酢には、抗菌作用があります。
寿司ネタの生魚は体を冷やしますが、生姜の辛み成分には胃腸を整え、体を温める作用もあるので、外で食べるにはもってこいの食材でした。
江戸には屋台だけでなく、料理店もたくさんあり、食文化が花開きましたが、そこには祖先伝来の植物の葉や花を利用する知恵が働いていました。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 植物の話』
監修:稲垣栄洋 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
植物学者・静岡大学教授。1993年、岡山大学大学院農学研究科(当時)修了。農学博士。専攻は雑草生態学。1993年農林水産省入省。1995年静岡県入庁、農林技術研究所などを経て、2013年より静岡大学大学院教授。研究分野は農業生態学、雑草科学。
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「なぜ夏の木陰はヒンヤリするのか?」
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公開日:2023.04.08