自転車用の細いタイヤと自動車用の太いタイヤ
自転用の細いタイヤを、地面に立てて置いてみてください。すぐに倒れますね。自動車用の太いタイヤはどうでしょうか。倒れません。細いタイヤは、重心から引いた垂線が接地点と重なっているため、傾くと接地点から外れてしまい、どんどん傾いていくのです。太いタイヤなら、仮に左に傾いても重心から引いた垂線が接地点の内側であれば、元に戻るモーメントが働いて復元します。
勢い余って反対側に傾いても逆方向のモーメントが元に戻してくれるのです。つまり、復元力が働いて太いタイヤは安定するわけです。倒れる場合は、重心の垂線が接地点の外側になったときです。でも、細いタイヤでも倒れないようにすることができます。「倒立振子の原理」を使うのです。倒れる方向に重心が移動したとき、支点をその方向に加速的に動かすことです。そうすれば、重心には倒れる方向と逆方向に慣性力がかかります。こうした重心移動でバランスが保たれ、立ったままの状態が保持できるのです。要するに、倒れかかったら、その方向に支点を加速運動させればよい、ということです
実際の自転車では、ハンドルを倒れる方向に切ることで倒立振子と同じように立った状態を維持します。自転車が低速でも停止していても、ハンドルを左右に小刻みに動かすことで立っていられます。
次に、細いタイヤ1輪を転がしてみましょう。転がるスピードがある限り倒れません。これは高速で回転する独楽が倒れないとの法則「ジャイロ効果」と同じで、回転軸を一定に保つ働きがあるためです。自転車を走行中にハンドルから手を放しても倒れずに進めるのは、このジャイロ効果があるためですね。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』著/望月修
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 すごい物理の話』
著:望月修
物理学は、物質の本質と物の理(ことわり)を追究する学問です。文明発展の根底には物理学の考えが息づいています。私たちの生活の周辺を見渡しただけでも、明かりが部屋を照らし、移動するために電車のモーターが稼働し、スマートフォンの基板には半導体が使われ、私たちが過ごす家やビルも台風や地震にも倒れないように設計されています。これらすべてのことが物理学によって見出された法則に従って成り立ち、物理学は工学をはじめ、生命科学、生物学、情報科学といった、さまざまな分野と連携しています。……料理、キッチン、トイレ、通勤電車、自動車、飛行機、ロケット、スポーツ、建築物、地震、火山噴火、温暖化、自然、宇宙まで、生活に活かされているもの、また人類と科学技術の進歩に直結するような「物理」を取り上げて、わかりやすく図解で紹介。興味深い、役立つ物理の話が満載の一冊。あらゆる物事の原理やしくみが基本から応用(実用)まで理解できます!
公開日:2023.06.21