ロッテがホークスに大逆転勝ち
ホークスファンは17年前のシーンが、脳裡をよぎったのではないか。
今年のパ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)第1ステージ。1勝1敗で迎えた第3戦、ホークスは0対0の延長10回、3点を先制し、第2ステージへの切符を掴んだかに思われた。
ところが、直後に悲劇が待っていた。10回裏無死一、二塁で、7番手の津森宥紀が藤岡裕大に同点スリーランを叩き込まれてしまったのだ。
勢いに乗るマリーンズは、8番手の大津亮介に対し、2死一塁から、安田尚憲が右中間を破り、4対3でサヨナラ勝ちを収めた。
ホームベース付近でうずくまる大津の肩を抱き、やさしくねぎらったのが投手コーチの斉藤和巳。胸がジンとするシーンだった。
06年のプレーオフ第2ステージは、リーグ優勝を果たしたファイターズとシーズン3位ながら勝ち上がってきたホークスとの間で行われた。
リーグ優勝チームには1勝分のアドバンテージが与えられる。それも含めてファイターズが2勝で迎えた第2戦。もう後のないホークスは、中4日でエースの斉藤をマウンドに送った。
斉藤は5日前に行われた第1ステージのライオンズ戦にも先発し、8回115球を投げていた。
肩は限界に達していた。
「それでも僕には投げないという選択肢はなかった」
男気が、疲労困憊の右腕を支えていた。
ファイターズ八木智哉、ホークス斉藤の好投で試合は淡々と進み、0対0で9回裏へ。この回、先頭の1番・森本稀哲を四球で歩かせたのが運の尽きだった。
2死一、二塁。5番・稲葉篤紀がカウント0-1から放った打球は二遊間へ。これをセカンドの仲澤忠厚が好捕し、二塁ベースに入ったショートの川﨑宗則にトス。この送球が、ほんの少しそれるのを見た森本は、サードベースを蹴り、一目散に本塁へ。
川﨑からの送球がホームに帰ってきたのは、森本がスライディングした直後だった。
このシーンについて、後年、斉藤に聞くと、「トスの軌道を見て“ウァ~”と。そこから先は何も覚えていない」と語った。
マウンド上で片ひざをついたまま動かない斉藤の両脇を抱え、ベンチにまで連れて帰ったのは、シーズン中、何かと面倒を見ていたフリオ・ズレータと・ホルベルト・カブレラの両外国人だった。
大観衆の前でKOされたボクサーならぬピッチャーの心情を、斉藤は誰よりも知る。苦い記憶が、今に生きている。
初出=週刊漫画ゴラク2023年11月3日発売号