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200勝まであと3勝。田中将大大物伝説【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

早々に007を返り討ち

 日米通算197勝の田中将大はドラフト1巡目指名を受け、北海道の駒大苫小牧高から2007年に東北楽天に入団した。

 高校時代の公式戦通算成績は57試合に登板し35勝3敗、防御率1・31。2年夏の甲子園では、駒大苫小牧高の選手権連覇に貢献した

 3年夏こそ、斎藤佑樹擁する早実に敗れ、準優勝に終わったが、世代ナンバーワン投手であることを証明した。

 球団創設3年目の楽天は、超大物ルーキーに、エースナンバーの「18」を与え、門出を祝った。

 あれは沖縄・久米島キャンプ中での出来事だ。

 あるパ・リーグの球団スコアラーが、報道陣に「グラブの中の握りで球種がわかる」と漏らした。翌日のスポーツ紙に、その記事が掲載されたのは言うまでもない。

 たまたま取材で久米島を訪れていた私は、18歳のルーキーに、そのことを質した。

 田中は「その記事は読みました」と答え、こう続けた。「ビデオで投手コーチと確認したところ、“気にすることないよ”と言われた。それに、本当に僕のクセを盗んでいたら、わざわざメディアにそんなこと言わないでしょう」

 田中の指摘通りである。“ネット裏の007”と呼ばれるスコアラーが、本当にクセを盗んだのであれば、わざわざ報道陣に明かす必要はない。公式戦まで握った秘密を隠しておいた方が得策だ。

 逆に言えば、クセ盗みのプロであるスコアラーがそうしなかったのは、決定的な証拠を掴んでいなかったからだろう。大物ルーキーとは言っても人の子。ちょっかいを出すことで動揺を誘おうとしたのかもしれない。

 後日、クセ盗みに定評のあった元スコアラーに、そのことを伝えると、感心したような口ぶりで、こう語った。

「クセというのは、いたちごっこのようなもので、こっちが見つければ、向こうが直す。また見つける。また直す。その繰り返し。プロで成功するピッチャーは一様に修正力が高い。ルーキーに対しては、敢えて早めに欠点を指摘し、動揺を誘うこともある。実際、それで自分を見失った投手もいました。

 でも高卒とはいえ、マー君や松坂大輔に、その手は通用しなかった。実力はもちろん、ルーキーの頃からプロで10年メシをくっているようなふてぶてしさがあった。甲子園の決勝の舞台を何度も経験しているせいか、舞台度胸が違っていましたよ」

 最初のキャンプで早々に007を返り討ちにした17年前の田中将大。日米通算200勝まで、あと3勝である。

初出=週刊漫画ゴラク2024年1月27日発売号

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