投資が怖いのはなぜか 損失回避と現状維持バイアス【眠れなくなるほど面白い 図解 認知バイアス】


失敗するぐらいなら今のままでよいと思う理由
【現状維持バイアス】
損が気になって判断が消極的に
あなたは投資と貯金のどちらが好きでしょうか? 投資は成功すれば儲かる半面、失敗すれば資産が減ってしまいます。それに対して貯金は、微々たるプラスしかないものの元本は保障されます。
野村アセットマネジメント株式会社の2020年の調査によると、日本国内で株式や投資信託を保有する人は全体の26%しかいないそうです。「損してまで投資をするなら貯金のままでよい」という思いが強くうかがえるでしょう。このような心理は、認知バイアスの1つである「現状維持バイアス」から来ます。
ダニエル・カーネマンの研究によれば、「フェアなコインを投げて表が出たら1500円もらえ、裏が出たら1000円払う」というゲームに対して、多くの人が参加をためらうそうです。冷静に考えれば確率的に儲かる“おいしいゲーム”なのですが、損する可能性を過大評価して判断を歪めてしまうのです。
それならば、もらえる金額がいくらなら納得できるのかというと、2000円くらいと答える人が多いことも示されています。損失額の2倍ほどの利益があって、はじめて損得が釣り合うと考えるわけです。
ここでは投資を勧めるのが目的ではありませんが、損を気にして躊躇しているなら、現状維持バイアスが働いていることを認識し、そのうえで冷静に考えて判断するとよいでしょう。
「損したくない」気持ちが判断力を狂わせる
現状維持バイアス =「得する」よりも「損したくない」気持ちが強く「現状のままでよい」と考える心理

このゲームをやりたい?

確率的には儲かるのに損のほうが重大に見えてしまう

認知バイアス
いくら得すれば損と釣り合うか?
多くの人は損に対して得が2倍くらいあれば許容できる

参考文献
- 野村アセットマネジメント「投資信託に関する意識調査〜若い世代に広がる資産形成の動き〜」2021年
- Daniel Kahneman, Thinking, Fast and Slow, Farrar, Straus and Giroux, 2011.[ダニエル・カーネマン(村井章子訳)『ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?』早川書房、2012年。 ]
- Daniel Kahneman and Amos Tversky, “Prospect Theory: an Analysis of Decision Under Risk,” Econometrica: 47, 263-291, 1979.
- Nathan Novemsky and Daniel Kahneman, “The Boundaries of Loss Aversion,” Journal of Marketing Research: XLII, 119-128, 2005.
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 認知バイアス』監修:高橋 昌一郎
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 認知バイアス』
監修:高橋 昌一郎
「認知バイアス」は物事の判断が、偏見や先入観、歪んだ情報・データ、個人的経験則・記憶、思い込みなどによって、非合理的になる心理現象。社会学(社会心理学)や経済学(経済行動学)、論理学、認知科学など幅広いジャンルで研究されている。
本書では、数ある「認知バイアス」から、「確証バイアス」「正常性バイアス」「同調性バイアス」「希少性バイアス」をはじめ「ハロー効果」「ダニング=クルーガー効果」「プロスペクト理論」「スリーパー効果」など、読者の関心や興味が強いと考えられるもの、身近で陥りやすい危険の高いもの、知っていると生活にも役立つものを中心に厳選して、図解でわかりやすく伝える。
フェイクニュースや詐欺的行為や犯罪が蔓延し、AI技術の向上などによって、「何が正しいか」わかりにくくなった現代の世の中で、賢く生きていくためには必須の知識!