腕を固く使う
ダイナミックバランス型のスイングでは「手を動かす」意識は必要ありません。野球のバントとかテニスのボレーのような感覚で、要は柔軟にした腕や手首でボールを追いかけて道具を振り打撃するのではなく「身体、腕、道具」を一体にした面(インパクト面)を作り、身体を大きく動かすことによってボールにエネルギーを与えるシステムです。
このとき、腕が緩んでいたら身体のエネルギーはボールに伝わりません。腕を固く使うことで身体とクラブを同じリズムで動かすことが可能になり、身体の動きが「大」、クラブの動きが「小」の状態を作り出すことができます。
手の役割は万力でクラブを固定するのと一緒で、手のフィーリングはほぼなくても構わないのです。『ピッチングの正体』『バッティングの正体』などの著書がある手塚一志さんがゴルフについて語った記事に、「ゴルフの場合、野球のホームランのようにマキシマムで振ったら、もっと違った振り方があると思う。
しかし方向の制御とか、距離の前後とかがあるから、ゴルフはバントでホームランですね」という趣旨のことが書いてありました。的を得ていると思ったし「腕を固く使う」と相通じるものがあります。
また、これも人から聞いた話ですが、現役時代の王貞治氏は「僕は相手の失投を打っているんじゃなくて、全身全霊を込めて投げてきた渾身の勝負球をただはじき返しているだけなんですよ」と言っていたそうです。これなどまさに「イメージはバント、結果はホームラン」と言えます。居合術や合気道の修練を重ねた王さんが辿り着いたいわゆる手に持った道具でひっぱたく、という即物的な感覚からかけ離れた「極意」を感じさせてくれます。
ボールを飛ばすためにエネルギー源を身体の動きに求めた場合、そのパワーをインパクト面に注ぎ込むのは腕です。「腕で叩く」という意味ではなく、腕はクラブへ身体のエネルギーを流す輸送パイプの役割を果たすのです。
ですから腕が「ゆるゆる」だったり「ゴムホース」のようでは途中で目詰まりしてしまいますので、せいぜい「ビニール管」ぐらいにはしたいものです。タイガー・ウッズぐらいのパワーがあるなら「硬質ステンレスパイプ」くらいの質感がスイング中の腕に欲しいものです。
女性のレッスンなどで「ゴム紐」のようだった腕の役割を「茹でる前のスパゲッティ」くらいに固くしてあげると飛距離が格段に伸びますが、これは力学的にも説明できる現象です。
もちろん、この「固さ」を求めたとき、全体的な動きの調和が崩れたり、ショットのタッチを失うのは間違いです。ここで学びたいのは「㆗ちゅう庸ようの力」であり、それを会得するには「ゆるゆるから始めて力の入れ方を知る」よりも「力を入れて緩みをなくしてから抜き方を覚える」というほうが近道でしょう。その「抜き方」がイコール身体の使い方になるのです。
まずは「身体、腕、クラブ」を一体化させた「インパクト面」ありきで、それに身体のエネルギーを流すパイプ役としての腕の役割が、飛んで曲がらないインパクト作りには欠かすことができません。そのためにも「腕を固く使う」ということを学びたいのです。
【書誌情報】
『一生ブレない身体のスイング』
著者:永井延宏
ゴルフのスイングはゴルフクラブと自分のバランスが大切。最新のクラブヘッドが大型化するにつれて、クラブに働く力と自分の力を均衡させることが重要になっている。この本では、最新のクラブを題材に、いまのクラブに合ったボールの打ち方を写真でわかりやすく解説。さらに、クラブに働く遠心力など、見えない力に負けない身体の効率的な使い方を練習ドリルとともに紹介。「入れ替え動作」という、身体の動かし方を写真でくわしく説明している。
公開日:2020.08.28