意欲する方向に脳は進化する
進化の引き金は何かを考えるときに、「一生懸命やること」という説を唱える人がいます。ゾウは、水を飲もうと鼻を伸ばしているうちに、長い鼻になった。キリンは、高いところにある葉っぱを食べようと背伸びしているうちに、長い首になった、という具合に。
これらは、もちろん俗説で間違いであることははっきりしています。ところが、脳の進化に関する限り、そうともいえないのです。脳は、確かに意欲に導かれて変化していくからです。
脳の回路全体の指揮者といえば前頭葉ですが、なかでも自我の中枢である前頭前野は、そのときどきの意欲や欲望に従って、さまざまな脳回路の活動を上げ下げしています。
だからこそ、音楽家を目指す人の脳は、次第に音楽家の脳になっていきます。同じように、数学者の脳、文豪の脳、職人の脳など、意欲をもって日々過ごしているうちに少しずつ変化して、それぞれプロフェッショナルの脳に進化していきます。
意欲さえあれば、脳は変わる。これは、脳科学の観点から確かなことです。
しかし、実は人生においていちばん難しいのが、意欲をもち続けることです。成功体験が、前に進むモチベーションを育む要因ではありますが、「意欲→努力→成功体験→意欲」というルーチンを維持し続けることは難しいからです。
とはいえ、意識して意欲をもって日々を暮らそうとする気持ちが、脳を変化させることは間違いないでしょう。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 脳の話』
著:茂木健一郎
シリーズ累計発行部数150万部突破の人気シリーズより、「脳」について切りこんだした一冊。「なぜ、脳から意識が生まれるの?」「ひと目ぼれは、どうして起きる?」「頭がいいって、どういう人?」人の脳は不思議でいっぱい。身近な疑問でナゾを解明! いまだに解明されない現代科学最大の謎といわれる脳。脳を知ることは、自分自身を知ることです。テレビや雑誌など、さまざまなメディアで活躍する脳科学者の著者が、脳の働きや仕組みを最新のトピックスや知識を使い、図解を交えてわかりやすく解説します。脳力を最大限に発揮させる方法から、「ひらめき回路」の鍛え方、、AI時代の脳の活かし方、脳の機能まで、疑問形式で楽しく読める脳の話が満載。仕事や学習、恋愛、人付き合いなど日常の生活でも役に立つ、脳のエンターテインメント教養本です。脳は自分を映す鏡。人工知能時代に負けない、ヒトの脳の大きな可能性がわかります。
公開日:2020.09.21