日本人を阻み続けるウエルター級の壁【二宮清純 スポーツの嵐】

日本人ボクサーの挑戦は0勝6敗

 日本人ボクサーの前に、またしても「ウエルターの壁」が立ち塞がった。

 さる6月19日、WBO世界ウエルター級2位の佐々木尽が、同級王者ブライアン・ノーマン(米国)に挑んだが、計3度のダウンを奪われ、5回46秒、KO負けを喫した。

 さすがは無敗の王者だ。ハードパンチを売り物にする挑戦者を歯牙にもかけなかった。

 1ラウンド、右フックを空振りし、下を向いた直後にノーマンの左フックが飛んできた。ダウン。ワンツーで2度目のダウンを喫した佐々木は、早々と劣勢に立たされた。

 2、3ラウンドも、ノーマンのワンサイド。パンチのひとつひとつが的確で、攻撃に無駄がない。また防御も固く、挑戦者につけ入るスキを与えなかった。

 主導権を握られた佐々木は、「来い!」というジェスチュアでノーマンを誘うが、これは苦肉の策だった。

 5ラウンド、ノーマンはガードの甘くなった挑戦者の顔面に左フック一閃。腰から崩れ落ちた佐々木はキャンバスに大の字になり、担架で控室に運び込まれた。キャンバスにしこたま後頭部を打ちつけた佐々木は脳震盪を起こし、一時的に意識を失った。

 佐々木の敗北により、日本人ボクサーによる世界ウエルター級王座への挑戦は、0勝6敗となった。辻本章次、龍反町、佐々木基樹、佐々木尽が1回ずつ、尾崎富士雄は2度のチャンスをものにできなかった。

 KO率81%の佐々木尽は「日本ボクシング界を変える」と豪語して、この一戦に臨んだが、力の差は如何ともし難かった。

 ウエルター級の制限体重は147ポンド(66・68キロ)。軽量級から中量級、そして重量級へと移行する過程のこの階級は、世界中の俊英が集結する。スピード、テクニック、パワーを併せ持つボクサーが多いため、花形階級のひとつとされている。

 全時代、全階級のナンバーワンボクサーを選ぶ「オールタイム・パウンド・フォー・パウンド・ランキング」で、常に1位となるシュガー・レイ・ロビンソン(米国)もウエルター級で名を上げ、世界王座防衛を重ねたあとミドル級に転じた。東洋人としては、世界6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(フィリピン)が、ただひとり世界ウエルター級を制している。

 最後に佐々木尽の今後について。敗れはしたものの、踏み込みの鋭さ、大振りながらもスイングの迫力は、大いなる将来性を感じさせた。ウエルター級という堅牢な壁を、いつの日にか自らの拳で打ち破ってもらいたい。

初出=週刊漫画ゴラク2025年7月11日発売号

この記事のCategory

インフォテキストが入ります