人の動きを読む賢いクマ、木登り名人・ツキノワグマの運動能力がすごすぎる【眠れなくなるほど面白い 図解 クマの話】


胸にある月の輪模様がトレードマーク「ツキノワグマ」

● 胸に月の輪模様:胸もとに白い三日月形の模様がある。ただし、個体によっては模様がない場合も。
● 鼻筋がスッと通っている:丸い耳とすっきりとした鼻筋が特徴。顔つきは優しげ。
● ツメが短く湾曲:短めのカーブしたツメで、高い木もスイスイ登る。
● 小柄でスリムな体型:体長は120〜180cm、体重はオスで150kg前後。比較的、身のこなしも軽やか。
小さな体に潜むポテンシャルの高さ
ツキノワグマは、西アジアから東アジアにかけて広く分布しています。日本では、亜種のニホンツキノワグマが本州、四国の山林に暮らしています。
体は控えめなサイズで、オスでも体重はおよそ100〜150kg程度です。とはいえ、その身軽さから運動能力が高く、木登りを得意としています。木の上でのんびり休んだり、枝先まで登って木の実を食べたりと、非常に器用です。
最大の特徴は、胸もとに浮かぶ白い模様。三日月のような形から「月の輪」と呼ばれ、この模様こそが名前の由来です。形や濃さには個体差があり、なかには模様のない個体もいます。
英語では「ムーン・ベア(moon bear)」という愛称でも親しまれており、特に海外の保護団体やメディアでは、この神秘的な名前で呼ばれることが多くあります。
ツキノワグマはもともと東南アジア方面にルーツを持つとされ、氷河期の気候変動に伴って北方へと広がり、ヒグマとは異なる進化の道を歩んできました。中国から朝鮮半島、そして日本へとわたってきたと考えられています。インド北部やヒマラヤ山脈周辺にも亜種の個体群が生息しており、広い範囲にわたって姿を変えながら暮らしている、文化と自然をまたぐクマだといえるでしょう。
また、昼行性ですが、地域や季節によって夜に活動することもあります。そして、秋には冬眠に向けてしっかりと脂肪を蓄え、冬には巣穴にこもって春を待ちます。
日本各地では古くから「山の主」として語られ、神格化されたり、あるいは民話のなかで人間と交流する存在として描かれたりしました。ツキノワグマは、人との精神的な距離が近い動物でもあったのです。
ツキノワグマは見ていた……観察力に優れた森の目撃者

ツキノワグマは臆病で人を避ける——確かに、それは間違ってはいません。しかし、だからといってこちらを視界に入れていないわけではないのです。
たとえば、登山道近くのカメラには時折、人の動きを目で追うような行動を取る個体の姿が映っています。木陰に身を潜め、こちらをじっと見つめるそのまなざしには、ただの警戒ではない「観察」の意志が宿っています。
さらに興味深いのは、人間の行動を見て覚える知性を持っていること。なかには、研究者が仕掛けたカメラやトラップに気づき、それらを避けたり、逆にいじったりする個体も確認されています。ツキノワグマはとても繊細で、だからこそ、よく見て、よく考え、記憶する力を備えているのです。
木の上にくつろぐスペースをつくり、そこでゆっくり食事をする

ツキノワグマは、森に暮らす間にさまざまな痕跡を残していきます。その代表格が「クマ棚」。これは木の上で食事をした跡です。木の上に座って実を食べ、折り曲げた枝を体の下に敷いてどんどん積み重ねていきます。木の枝が不自然に固まっていたら、そこでツキノワグマが食事したり、くつろいだりしていたということかもしれません。
また、はがされた樹皮や、果実をたっぷり食べたあとのフンも、その暮らしぶりを物語るヒントといえるでしょう。特に、木の幹に残ったツメは、ツキノワグマの存在を推測する手がかりにもなります。直接姿を見せなくても、何かしらの痕跡を残し、ツキノワグマは森のあちこちにその気配をにじませています。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 クマの話』監修:山﨑晃司
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 クマの話』
監修:山﨑晃司
世界中数多くの動物園で飼育され、アニメや漫画、ファンシーキャラクターのモチーフとしても起用されることの多い人気の動物「クマ」。
最近では日本全国で目撃が相次いで発生したり、温暖化の影響で冬眠をしないクマも確認されたりすることから、話題に事欠かない今大注目の動物です。
しかし、ペットとして飼うことは難しく、ときに人を襲う恐ろしい側面も持ち合わせるクマ。
それなのになぜ人間にとって馴染み深く身近な存在に感じるのでしょうか。
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愛玩動物、猛獣、食用、ワーキングアニマルなど、さまざまな角度からクマの生態と特徴を解説し、クマの知られざる魅力に迫ります。
これを読めばクマのことがもっと好きになること間違いなしの一冊です。
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