“最初のファラオ”は「サソリ1世」? 古代エジプト最初の王の座をめぐるミステリー【眠れなくなるほど面白い 図解 古代エジプトの話】

【初期王朝時代】最初のファラオは誰だった?

ナルメル王説 VS「サソリ1世」説

最初のファラオは誰かについては諸説あります。マネトは、第1王朝の最初の王をメネスとしています。伝説によれば、メネスは動物のカバに殺されたとされ、カバはセト神の化身と考えられているため、神話のオシリスとセトの対立を連想させます。「アビドス王名表」では「メニ」という名前が最初の王として記されており、これはギリシャ語の訛りで「メネス」が「メニ」になったのではないかと推測されています。

一方、メネスと同時代のナルメル王のパレットが発見されています。パレットとは化粧用の顔料をすりつぶす皿で、その図柄が上下エジプトの統一を表すと解釈され、ナルメル王こそが最初の王だとされました。実際に、初期王朝時代の王墓地アビドスで出土した王名を記した泥には、最初の王はナルメルと記されていました

しかし、考古学的には先王朝時代終わりのナカダIII期(紀元前3200〜3000年頃)に、王が存在していたことがわかっています。第0王朝とも原王朝とも呼ばれ、なかでも有名なのが「サソリ1世」です。アビドスの墓から多くの副葬品が出土し、サソリのサインを記した土器もあったことから、「サソリ1世」と呼ばれました。現在知られている最初のファラオは、第0王朝の「サソリ1世」だともいえます。ただし、この時代はまだ上下エジプトが統一される前にあたります。

ナルメル王のパレットには何が描かれている?

古代エジプトでは、粒の細かい泥岩で作られたパレットで方鉛鉱やマラカイトなどをつぶし、目の縁に塗っていた。太陽光線から目を守るためであるが、ナルメル王のパレットは縦64cm、横42cmと大きく、神への奉納用とみられる。

表面

● 下エジプトの赤冠をかぶった王と臣下
● 首長の猛獣
● 首を切られて横たわる敵の死体
● 本来、このくぼみはアイラインの顔料の原料をすりつぶす場所
● 城壁を壊す雄牛の下に敵の姿。敵を攻撃する王を示す

裏面

● 四角いセレク(王宮正面をかたどったもの)の中のナマズとはナルメルの王名
● 人間の頭をもつ雄牛の姿の女神バト
● ハヤブサの姿のホルス神が捕虜の縄を引っ張っている
● 上エジプトの白冠をかぶった王が異民族を棍棒で打ちすえている
● 捕虜の体はパピルスが繁茂する湿地帯

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 古代エジプトの話』著:河合 望(エジプト学者・考古学者/筑波大学人文社会系教授)

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 古代エジプトの話』
著:河合 望(エジプト学者・考古学者/筑波大学人文社会系教授)


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