王貞治と宮本武蔵。「千日万日の稽古」【二宮清純 スポーツの嵐】

野球界では長嶋さん以来の文化勲章

 通算868本塁打の王貞治さん(現福岡ソフトバンクホークス取締役会長)が、文化勲章を受章した。野球界では、今年6月に他界した長嶋茂雄さんに次いで2人目だ。

 これを受け王さんは、「長嶋さんの受賞は当然だと思っていたけど、まさか自分が選ばれるとは。びっくりしている。ONという形で切磋琢磨できてよかったと思っているし、長嶋さんもそう思っているんじゃないかな」と語った。

 ちなみに文化勲章とは「科学技術や芸術などの文化の発展や向上にめざましい功績を挙げた者に授与される」勲章だが、スポーツ界での受賞は、ONを含め、“フジヤマのトビウオ”と呼ばれ、敗戦直後の日本に勇気を与えた競泳の古橋広之進さんと、日本のスポーツ環境の整備に多大なる貢献をしたJリーグ初代チェアマン川淵三郎さんの4人である。

 私が知る限りにおいて、王さんほど自分にも他人にも厳しい人はいない。二刀流の宮本武蔵が、きっとこういう人ではなかったか、と勝手に想像している。

 以下のコメントは、NHKが2008年11月29日に放送した「プロ魂~王監督のメッセージ」という番組からの抜粋だ。

「基本的にはプロっていうのは、ミスしちゃいけないんですよ。そう思って取り組んでいかなければならない。人間だからミスはするもんでしょ、と思いながらやる人は、絶対にミスするんです。また、それも多いんですよ。同じようなミスをする。だから“オレは人間なんだ”と思っちゃいけないんですよ、プロは」

 書きながら、背筋が伸びる思いがした。

「人間だからミスはある」

 部下がミスを仕出かした時、こう言って慰める上司がいる。ここで問われるのは部下の態度だ。

「同じ失敗を2度と繰り返さないぞ」

 固く誓って、自らの態度を改めないと、同じミスを何度も繰り返してしまうのだ。

 だから、王さんはこう説くのである。

「100回やったら100回、1000回やったら1000回、絶対オレはちゃんとできるという強い気持ちを持って臨んで初めてプロなのでは。“しょうがない”というのは、まわりの人が言うことで、自分でそれを言っちゃダメなんです」

 日々決闘に明け暮れていた武蔵には、次の名言がある。

「千日の稽古をもって鍛となし、万日の稽古をもって錬となす」

 鍛錬とは、そういうものだ。それは野球人としての王さんの生き様そのものである。

初出=週刊漫画ゴラク11月7日発売号

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