人生ベストバウトは高3夏!今でも謎のままの“ゴッドハンド”!!巨人、高梨雄平投手の連載日記【ナシさんのアリな話 鉄腕奪取】第21回

僕が地元の川越東高校を選んだ理由

『ラブすぽ』読者のみなさん、読売ジャイアンツの高梨雄平です。このコラムを書いているのは2025年8月。僕は今、ジャイアンツのファームで過ごしています。5月に登録抹消されてから約3カ月間……プロで過ごしたこれまでの9年間で、ここまで長い期間一軍で投げなかった経験は初めてです。この3カ月間をどう過ごしてきたのかは次回のコラムでお伝えしようと思います。

今回のテーマは「高校時代」。ちょうど夏の甲子園が行われている時期でもありますし、たまには「今」ではなく少し懐かしい話をしてみようかなと思っています。

僕は埼玉県川越市の生まれで、小学校から高校卒業まで、ずっと「地元」で過ごしてきました。小中学校時代は川越のリトル、シニア(硬式野球)のチームでプレーしていたんですけど、決して「スーパー中学生」ではありませんでした。リトルではエースでしたけど、シニアに入団したときは身長が160センチちょっとで、最初はピッチャーではなくセンターを守っていました。

チームには180センチを超えるようなピッチャーが二人いて、僕は当初「三番手ピッチャー」でした。体格はもちろん、ボールも自分より速かったですね。ただ、その二人はちょっとケガがちで、自分が少しずつ登板機会を増やして、中学3年の春からは僕が背番号1を付けていた記憶があります。

高校は地元の私立校・川越東高校に進みました。正直、いわゆる「名門校」への進路も選択肢にはあったんですけど、決め手となったのは当時の監督が元プロ(ヤクルト、ロッテ)の阿井英二郎さんだったことと、野球部の専用グラウンドができたこと、あとは「高校3年間だけでなくて、大学も含めた7年間のスパンで考えている」と言ってもらえたこと。これが大きかったですね。あとは強豪校に行って二番手・三番手で投げるより、川越東でエースとして投げたほうが目立つんじゃないか?みたいな「計算」も少しはあった気がします(笑)。

進学校でもあったので卒業後の進路も読みやすかったですし、周りには頭の良いヤツもたくさんいて面白かったですね。今でも川越東を選んで良かったと思います。ただ、「来世も行くか?」と言われたら絶対に行かないです(笑)。

別に野球部が嫌だったとか、そういう理由ではなく、生徒数2000人のマンモス男子校はやはりキツいです……(笑)。今でも鮮明に覚えているのが入学初日。川越東の体育館ってメチャクチャ広くて、バスケコートが6面くらいあるんです。そんなバカでかい体育館が男だけで埋まるんですよ。なかなか衝撃的な光景で、「とんでもないところに来ちゃったな……」と痛感しました。

僕らの世代はおそらくまだ「厳しい練習や風習」が残っている時代だったと思うんですけど、川越東の野球部にそんな雰囲気はありませんでした。もちろん、先輩・後輩の上下関係はあります。ただ、そこに理不尽さみたいなものは特にない。僕は今、高校の後輩でアナウンサーをやっている雫石将克と『無駄話バンク』っていうポッドキャストを配信しているんですけど、それを聞いてもらえれば川越東の野球部の雰囲気も分かってもらえると思います。

もちろん、練習は厳しかったです。とにかく延々走らされた記憶しかないんですけど、今でもはっきり覚えているのが、監督から「こんな練習に意味はない」って断言されたこと。「でも、こういう強度の練習を乗り越えること、無意味な練習をやる力を付けるんだ」と言われて、腑に落ちたんですよね。それはプロになった今でも理解できますね。

3季連続で花咲徳栄に敗退……
岩井監督の顔は一生忘れない

高校3年間で一番記憶に残っているのは、高校3年の夏。埼玉大会の準々決勝、春日部共栄との試合です。この試合、僕は先発して延長14回、たしか198球を投げて無失点。たぶん今なら炎上案件です(笑)。でも、人生ベストバウトを挙げるとすればこの試合かな……。

ただ、その裏の打席で足を痛めちゃったんです。ヒットは打ったんですけど、一塁まで倒れ込むように走って、そのまま代走を出されました。ベンチ裏で理学療法士の人に診てもらっているときに歓声が聞こえて、チームが勝ったことを知るんですけど、治療中だったので「サヨナラの瞬間」は見てないんです。

準決勝は花咲徳栄と当たったんですけど、正直言うと絶対に投げられる状態ではなかった。試合までは中2日しかなくて「これはヤバい……」と思っていたんですけど、夜中に監督から「治療行くぞ」と呼び出されて、監督の車でよくわからない場所まで連れて行かれたんです。そこで出てきたおじさんに監督が「よろしくお願いします」って頭下げていて……「監督が頭下げている……誰なんだこの人?」と思ったんですけど、ちょっと体触ってもらったら「……いけます!」って。ビックリしましたね……。今でもその人が誰なのか分からないんですけど、元プロの監督だからこそ知っている、いわゆる「ゴッドハンド」みたいな人だったんだと思います。

とはいえ万全ではないので、試合はリリーフ。監督からも「お前は投げないと思われているから」と、試合前のアップにも出ずに6回からいきなり登板しました。結果的に延長10回でサヨナラ負けしているんですけど、甲子園に行けなかった悔しさはもちろん、僕らの代は秋、春、夏と全部、花咲徳栄にベスト4で負けているんです。「とにかく花咲徳栄に勝てなかった」という印象が強いですね。

とにかく岩井さん(※花咲徳栄の監督・岩井隆氏)の顔だけは一生忘れない(笑)。今年ドラフト1位で入った石塚(裕惺)が花咲徳栄の出身で、この前球場にいらしていたんですけど、そこで初めてお話しました。「お久しぶりです。あの時はしてやられました」って(笑)。

でも、この夏があったからこそ、その後の大学、社会人、プロへと道が開けた気もしますし、僕にとって高校野球は今でも良い思い出です。

次回のコラムも是非、お楽しみに!

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