Ⅴ9巨人から学ぶ。対角線にスターを【二宮清純 スポーツの嵐】

サードとファーストは飛車角

 元巨人の岡﨑郁から、こんな話を聞いたことがある。

「僕がショートからサードにコンバートされた時のことです。ファーストのポジションは、ひとつ年下の駒田徳広が守っていた。

 巨人のサードといえば長嶋茂雄さん。ファーストといえば王貞治さん。僕らの少年時代のスーパースターです。このONがⅤ9を支えた。

 その2人のポジションを、僕と駒田が守っているんです。“おい、オレたちで大丈夫なのかよ!?”と思わず、駒田に口走ってしまったことがあります」

 少年時代、Ⅴ9巨人に熱狂した私にとって、この話はストンと胸に落ちるものだった。

 さる8月16日、巨人は東京ドームで阪神を相手に、長嶋茂雄の追悼試合を行なった。巨人の選手たちの背番号は、全員が「3」。永久欠番がズラリと一塁線上に並ぶ光景は壮観だった。

 だが選手たちは、天界のミスターの期待に応えることができなかった。0対3と完敗。「3」を背負って采配を振るった阿部慎之助は「この試合を見てたら(長嶋さんに)めちゃくちゃ怒られると思う」と神妙な面持ちで語った。

 この日、左ヒジのじん帯損傷から約3カ月ぶりに復帰し、「4番サード」でスタメン出場した岡本和真は、“病み上がり”ということで精彩を欠いた。

 対角のファーストは、この5月に福岡ソフトバンクから移籍してきたリチャ―ド。2三振とサードへのファールフライ。フェアゾーンの中に打球が1本も飛ばなかった。

 翻って阪神。この日、快音は聞かれなかったものの「4番サード」の佐藤輝明は、目下、ホームランと打点の2冠王。優勝すれば、MVPの最有力候補だ。

 ファーストの大山悠輔は、自らのバットで追加点となる3点目を叩き出した。守備も達者で、チームに安定感と安心感を与えている。

 加えていえば、サードとファーストにチームの顔を置くことは、興行的にも有益である。スタンドに近く、ファンはプレーを間近で見ることができるからだ。

 Ⅴ9巨人が別格の人気と実力を誇ったのは、対角にONという稀代のスターを揃えていたからだとも言える。

 阪神も、未だに語り継がれる「1985年」はサードが掛布雅之、ファーストがランディ・バースだった。

 将棋にたとえていえば、サードとファーストは飛車角である。「歩のない将棋は負け将棋」というが、大駒に躍動感のない将棋も退屈である。

初出=週刊漫画ゴラク9月5日発売号

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