クローン技術は何を目的にしているの?【生物の話】

~生殖技術の応用~
1996年、イギリスで一頭の羊が生まれました。「ドリー」と名付けられたこの羊の誕生をめぐって、世界は喧々諤々の議論を繰り広げることになります。なぜなら、ドリーはクローン羊だったからです。
それ以前にも、受精後発生初期の胚を使う方法で個体を作り出すというクローン技術は、畜産分野などで活用されていました。しかし、ドリーの誕生は、一頭の成体の体細胞から核を取り出し、未授精卵と細胞融合させるという方法から生まれた画期的な技術による成果でした。
一部の無性生殖動物を除いて、人間を含む地球上の生物は有性生殖によって子孫を残します。有性生殖による異なる遺伝子の組み合わせによって担保されるのが多様性です。ドリーの場合は、遺伝子は親(体細胞の提供個体)と全く同じです。
ドリーの誕生をきっかけに、この技術を使えば、理論的には人間のクローンも作りだすことができると、世界を震撼させました。極端な話、アインシュタインのような天才の細胞から核をとりだして移植すれば、もうひとり天才を生み出せる……。選別思想にもつながりかねない危険性をはらむ技術に対し、日本を含む各国はすぐに、クローン技術のヒトへの適用禁止という対応策を打ち出しました。
その後もドリーと同じ方法で家畜は生まれ、クローン技術は、食料の安定供給、医薬品製造、移植用臓器の作製などに寄与すると期待されています。またマンモスなど絶滅した種を、残された細胞から復活させられるのではないか、そんなことを口にする研究者もいます。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 生物の話』
監修:廣澤瑞子 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
横浜生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒業。1996年、東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、米イリノイ大学シカゴ校およびドイツマックスプランク生物物理化学研究所の博士研究員を経て、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻細胞生化学研究室に助教として在籍。著書に『理科のおさらい 生物』(自由国民社)がある。

「人間は何歳まで生きられる?」「iPS細胞で薄毛を救う?」「三毛猫はなぜメスばかり?」「黒い花は世に存在しない?」ーー生命の誕生・進化から、動物、植物、ヒトの生態、最先端の医療・地球環境、未来まで、生物学でひもとく60のナゾとフシギ!知れば知るほど面白い!
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