「橋姫」が守っていたのはあの世の入口? 宮田登が解き明かした江戸のトポロジー【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

日本の民俗学 ③ 都市を研究対象とした民俗学

周辺の地から都市へ研究対象を拡大

初期の民俗学の調査は、農村・山村・海村・離島などを中心に行われました。その理由は、中心ではなく周辺の地であればあるほど、古いかたちの民俗が残っていると考えられたことによります。一方で、民俗学は次第に都市に生まれた民俗も調査研究の対象とするようになりました。

都市民俗学を牽引した民俗学者の1人が宮田登です。宮田の都市民俗学は、特に東京を江戸との連続性で捉えようとしたところに特徴があります。宮田は、近世の随筆や地誌などに注目し、江戸の年中行事や流行神、稲荷信仰や富士講などの民間信仰、また、隅田川沿岸のような都市周辺部に発生した怪異譚などを素材に、現代の東京と近世の江戸を往復するようなスタンスで都市民俗学研究を進めました。

宮田が行った江戸・東京に関する都市民俗学研究の1つに、江戸の怪異に関するトポロジー(場所論)的研究があります。

宮田によれば、江戸で怪異が発生したとされる地点は、川にかけられた橋の周囲や、斜面や坂道に集中しています。江戸の住民の認識では、川や橋、坂というのは都市の周縁、都市の外部と内部との境界にあたる部分であり、そこを超えると別の世界、異界が広がっていると思われていたようです。こうした怪異は、現代の都市伝説にもつながるものです。

都市に存在した「異界」との境界

この世とあの世を結ぶ橋

宮田登によれば、江戸で怪異が発生したとされる地点は、八丁堀と深川をつなぐ永代橋、馬喰町と本所をつなぐ両国橋など、大川(現・隅田川)にかけられた橋の周囲に集中していたという。江戸の妖怪ではないが、女神あるいは嫉妬深い鬼女として伝承される「橋姫」も、橋が、この世とあの世の境界、あるいは異界への入口とみなされていたことを示している。

カミの使いか、妖怪か?

かつて江戸の斜面には多くの穴があり、そこに狐や狸が住んでいた。当時の民間伝承において、狐や狸はともに超自然的な力を持つ「境界の存在」として捉えられており、さまざまな怪異を引き起こすと信じられていた。また、狐は稲荷神の神使としての神聖な側面と、人を化かしたり憑いたりする恐ろしい妖怪としての2つの側面を持っていた。江戸時代から続く「狐と狸の化かし合い」という概念は、ずる賢い者同士の争いを指す言葉として今なお定着している。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』監修:島村恭則

【監修者紹介】
島村恭則(しまむら・たかのり)
民俗学者。関西学院大学社会学部長・教授。1967(昭和42)年、東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。文学博士(筑波大学)。国立歴史民俗博物館教官、韓国・翰林大学校客員教授、東京大学客員教授などを歴任。日本各地で民俗学調査を行うとともに、韓国・中国での調査・研究も行う。
近年は、世界民俗学史をふまえた民俗学理論の研究、とくに民俗学を国際的・学際的な「ヴァナキュラー文化研究」として再編成する議論を展開している。
著書に『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?』(平凡社)、『民俗学を生きる ヴァナキュラー研究への道』(晃洋書房)、『これからの時代を生き抜くための民俗学入門』(辰巳出版)、『昔話の民俗学入門 民間伝承の秘密を読み解く』(創元社)、編著に『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(創元社)などがある。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』
監修:島村恭則


【Amazonで購入する】

現代の社会を知る上でも重要な学問ともいわれる「民俗学」。
そもそも「民俗学」とは「民」(=人々)について「俗」(=ヴァナキュラー)の視点で研究する学問であり、日本においては、春夏秋冬の年中行事や風習から、身近な衣食住の伝統や習慣など、都市や地方のあらゆる「文化・もの」について、歴史や謂われ、理由などが存在する。
本書では、現代にも繋がる礼儀やしきたりや祭祀、文化や風習、民間伝承、芸能、文化遺産から、昔話、怪談、(都市)伝説、B級グルメ、ネットミーム、パワースポット、七不思議伝と言われるものまで幅広く取り上げ、「現代民俗学」としてあらゆるジャンルについてわかりやすく紹介、解説する。

この記事のCategory

オススメ記事

覇権主義的な立場を批判する学問「民俗学」は何を研究しているのか?【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

名も無き人々の言い伝えから日本文化を明らかにした「日本民俗学の父」柳田國男の民俗学とは【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

なぜ「フォークロア」は呼び名を変えたのか? 民俗学にかけられたイメージからの脱却の歴史【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

ナポレオンへの反旗から生まれた民俗学! 似てるけど異なる「文化人類学」との違いとは【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

民俗学は「マッチョ」じゃない? 経営者・主婦・農民など誰でも研究者になれる民俗学の特性とは【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

柳田國男だけじゃない! 日本民俗学を創った学者たち【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

覇権主義に抗う「生きた文化」の正体!民俗学における重要キーワード「ヴァナキュラー」とは!?【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

民俗学は「歌」から始まった? アイルランドから日本まで、独自の進化を遂げた民俗研究【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

求人情報

インフォテキストが入ります