情けない鬼が大出世!? 興福寺の「国宝・天燈鬼・龍燈鬼」が愛される理由とは【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

武士団の意地と力を象徴する筋肉質の鬼2体!

慶派が示した邪鬼造像の斬新表現 ── 天燈鬼立像と龍燈鬼立像

 通常は四天王像に踏み付けられた情けない姿の邪鬼だが、その邪鬼を独立させ、仏前で灯籠をかつがせて仏教世界を照らす役割を与えたのが興福寺国宝館(奈良市)の龍燈鬼と天燈鬼立像(国宝)。ともに80cmに満たない小像である。彩色は剥落しているが、朱色に塗られた天燈鬼は、腰をひねって大きく上半身を傾け、肩で灯籠をかつぎ、口を大きく開いて阿形をつくる。頭上に灯籠を乗せる龍燈鬼は、緑色に塗られ、両足を踏ん張って吽形に口を閉じ、両者一対で見事に「阿吽」の呼吸を表現している。

 このような仏像は、わが国以外、東アジア諸国でも類例がなく、そもそも経典に記載されていない鬼だという。両鬼の姿とは、長い間、「殿上人」として宮廷に昇殿する公家衆から「地下人」のように蔑まれてきた武士団が、ついに鎌倉幕府を開き、新しい時代を担う新勢力となった意地と実力を示す象徴のように見える。虐げられてきた邪鬼が、独立して仏前を照らす存在に昇格しているところに、その寓意が含まれているのかもしれない。

 ところで、この仏像が世に知られるようになったのは、たまたま江戸期の興福寺で「享保弐丁酉日次記」という史料が発見されたことによる。それまでは不詳のまま西金堂須弥壇に安置されてきた龍燈鬼の胎内から、「建保3年(1215年)、大法師聖勝を願主として康弁が造った」(趣旨要約)と記載する紙片が見つかったからだ。これで龍燈鬼の作者は仏師運慶の三男康弁(生没年不詳)だと判明。もう片方の天燈鬼の作者は不明だが、慶派の仏師の作であることはまず間違いないだろう。慶派の写実的な筋肉表現と鎌倉武士団の躍動感、力強さが一体になった秀仏である。


天燈鬼立像・龍燈鬼立像

興福寺の西金堂は奈良時代、光明皇后が母、橘三千代の菩提のため建立した堂。釈迦説法の場面を再現する群像が配置されていたが、焼失。龍燈鬼、天燈鬼はその後の制作

興福寺龍燈鬼立像・天燈鬼立像

昭和29年(1954年)に国宝指定 / 奈良市興福寺所蔵

鎌倉時代初期の建保3年(1215年)、運慶の三男康弁(生没年不詳)が龍燈鬼立像を造立、天燈鬼立像は作者不明ながら慶派の仏師によるものとされる。2 体とも興福寺西金堂須弥壇に安置されていた像で、四天王像に踏みつけられる邪鬼を独立させ、仏前を照らす役目を与えたもの。龍燈鬼像の眉毛には銅板、牙を水晶、龍の背びれに動物の革を使い、両像とも目は水晶を嵌め込んだ玉眼。複数の木材を組み合わせる檜の寄木造。龍燈鬼像高77.8cm・天燈鬼像高78.2cm。


にゃん太:龍燈鬼と天燈鬼って、怖い顔してるのに、なんかかわいいね。
わん爺:そうだのう。天燈鬼像は挑むような顔つきにユーモアがあるし、龍燈鬼像は龍の尻尾を掴むなどコミカルなおかしみがある。そんなデザインは仏教美術の定型に当てはまらんのだな。特に仏法を犯す邪鬼が、逆に仏教世界の光を照らすなんて意表を突いている。既成の仏像に対する一種のパロディかもしれんのう。


【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』著:鈴木 旭

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』
著:鈴木 旭


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国宝は「重要文化財のうち世界文化の見地からも価値の高いもの、類いない国民の宝」と定義され、現在1144件(2025年)が認定されている。
普賢菩薩像から伊藤若冲までの「絵画」、弥勒菩薩半跏思惟像など「彫刻」、日本刀などの「工芸品」、銅鐸・金印・古墳出土品などの「考古資料」、中尊寺金色堂など「建造物」、「書跡・典籍」、「古文書」、「歴史資料」の8分野がある。
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