LOVE SPORTS

  • HOME
  • 書籍
  • iPS細胞は薄毛に悩む男性の救世主になる?【生物の話】

iPS細胞は薄毛に悩む男性の救世主になる?【生物の話】

Text:廣澤瑞子

~新規医療技術開発~

ヒトがこの世に生を受けたときには、一つの受精卵でしかありません。それが分裂を繰り返して、さまざまな細胞になり、ヒトを形成するようになります。もし受精卵と同じく万能性をもった細胞があれば、医療とくに再生医療を飛躍的に進歩させるに違いない――研究者たちはそう考えました。そして前述のES細胞が生まれます。しかし、受精卵から胚を取り出すという倫理的な問題が、ES細胞を使った研究の障壁となったことは事実です。

iPS細胞〈※1〉は、生体の皮膚や血液などから採取した細胞をもとに作られた万能細胞です。〈※2〉1度は分化して万能性を失った細胞に山中4因子を入れるだけで細胞がリセットされ、また万能性を持つようになることがわかりました。これを機に、再生医療研究および創薬研究が一気に進むことになります。

iPS細胞による再生医療は、すでに臨床段階にあります。2014年には加齢黄斑変性という目の病気の患者に対して、本人の皮膚由来のiPS細胞から網膜を作り、それを移植するという手術が行われました。

脊髄損傷患者に対するiPS細胞の臨床研究のほか、視神経、神経細胞などの作製も始まっています。さらには臓器作製研究も進んでいます。

さて、タイトルの「薄毛」についても触れておきましょう。薄毛の原因は頭髪を作り出す細胞の死滅にあります。となれば、iPS細胞をその細胞に分化させ頭皮に埋め込めば……再び髪の毛は生えてくるのか? 期待は膨らみますが、悪いニュースを一つ。加齢黄斑変性の手術の際、細胞の作製だけで5000万円かかったそうです……。

※1:2006 年、山中伸弥教授率いる京都大学の研究チームが世界で初めて開発に成功した人工多能性幹細胞

※2:細胞の初期化にかかわる遺伝子。

iPS細胞の活用【眠れなくなるほど面白い 図解 生物の話】

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 生物の話』
監修:廣澤瑞子  日本文芸社刊

執筆者プロフィール
横浜生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒業。1996年、東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、米イリノイ大学シカゴ校およびドイツマックスプランク生物物理化学研究所の博士研究員を経て、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻細胞生化学研究室に助教として在籍。著書に『理科のおさらい 生物』(自由国民社)がある。


「人間は何歳まで生きられる?」「iPS細胞で薄毛を救う?」「三毛猫はなぜメスばかり?」「黒い花は世に存在しない?」ーー生命の誕生・進化から、動物、植物、ヒトの生態、最先端の医療・地球環境、未来まで、生物学でひもとく60のナゾとフシギ!知れば知るほど面白い!

芝山ゴルフ倶楽部 視察プレーのご案内