自己利益の追求は社会全体の利益を損なう
長く付き合う2者の関係では、ギブアンドテイクが重要であると述べましたが、これが、もっと多くの人が所属するコミュニティの場合はどうでしょうか?哲学者のハーディンは、共有地の悲劇という例を挙げて、この問題を解説しています。
産業革命前後のイギリスの農村には、コモンズと呼ばれる共有地があり、農民たちはそこに羊毛をとるための羊を放牧して育てていました。農民一人ひとりの立場からすると、共有地に放牧する自分の羊が多ければ多いほど、羊毛の収穫量が増え、利益になります。しかし、多くの人がそれをしてしまうと、牧草が無くなるなど、共有地の荒廃が進み、結局は全員が羊を飼えなくなって、全体の損失になるのです。
この状況は、個人にとっての利益と、3者以上の集団全体の利益が対立する状態として、「社会的ジレンマ」と呼ばれます。このような状態を解決するためには、どんな手段を取ればいいのでしょうか?まずは、共有地を管理する人を置き、ルールを守ったら報酬を与え、破ったら罰を下すといった、アメとムチ作戦が重要でしょう。また、共有地の状況について教育を施し、道徳観や価値観の転換を促すこともできます。ただ、どちらの場合も、対策にコストがかかったり、自分以外の人が守っているかどうか不信感を持ってしまったりといった別なジレンマも発生します。
最終的には、それらの施策を含めて、「社会全体の利益になるような行動こそが自分のためになる」という意識、いわば利他的利己主義を各人が確立していくことが重要になってくるのです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』 監修:亀田達也
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多数派の意見に同調してしまうのはどうして?
日本人はよく多数派に同調しやすい、そんなイメージがあるかもしれません。しかし、この傾向はどんな人にも当て余る普遍性を持ったものなのです。なぜ私たちは多数派の意見に同調しやすいのでしょうか?この同調について、有名な実験があります。
この実験はカード①に描かれた線と同じ長さのものを、カード②に描かれた3本の線の中から選ぶというもので、実験には8人の学生が参加しました。回答はひとりずつ順番に行いますが、実は参加者のうち7人は〝サクラ〞で、あらかじめどの線を答えるかを指定されていました。
明らかに間違った答えでも多数派に同調してしまう
この実験の目的は、多数が間違った回答をした場合、被験者はそれに同調するかを調べることで、被験者は7人のサクラの回答を聞いたあと、8番目に回答します。実験は線の長さを変えながら複数回行われましたが、問題自体はいずれもひとりで回答したときは正解率99%というごく簡単なものでした
ところが、7人全員が誤った回答をした条件下だと、被験者による誤答率は32%にも上りました。普通なら間違えようのない問題でも、全員が別の回答を選ぶと、それに大きく影響されてしまうことが明らかとなったわけです。なお、7人のサクラのうち、必ず正解を答える他者がひとりいた場合、被験者の誤答率は5・5%まで低下しました。
会社の会議などでも全員一致の意見に反対するのは勇気がいりますが、ひとりでも反対者がいれば意見を表明しやすくなります。同調を促うながすには全員一致であることが重要で、ひとりでも自分と同じ意見の人がいると、その圧力は大きく弱まるというわけです。
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『眠れなくなるほど面白い 図解 社会心理学』
監修:亀田達也
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公開日:2022.11.18