第2回 AEWは女子も熱い!天才的格闘センスの持ち主にしてマルチな才能を発揮する”レディ・サムライ”志田光

Text:岩下英幸

トレードマークの真っ白な竹刀を掲げて観客の声援に応える志田光

トレードマークの真っ白な竹刀を掲げて観客の声援に応える志田光

– 2024年6月29日(現地時間) ニューヨーク州バファロー キーバンク・センター –

 

旗揚げから満5年を迎えたアメリカプロレス団体・AEW(オール・エリート・レスリング)では、日本人女子レスラーの活躍も見逃せない。その筆頭が、団体内最高の栄誉である女子世界王座を実に3度も戴冠した志田光である。志田は、まさに自他共に認める出色のスターレスラーと言っていいだろう。

長く日本のプロレスシーンといえば、男性のみがリングで闘うのに対し、女子選手のみが所属する団体は「女子プロ」として明確な区分けがなされていることが一般的だった。最近でこそ数々の団体で男女共に同じリングで試合をする団体も多く、老舗団体である新日本プロレスに至っては、団体内に所属女子レスラーが全く居ないにも関わらず女子王座が新設されるなど、プロレス界における男女の垣根が取り払われる潮流がひしひしと押し寄せている。そんな中、AEWでも団体設立当初から所属し、今日に至るまでトップレスラーの一人として君臨しているのが、前述の志田光なのである。

そんな志田だが、プロレスラーとなった経緯はかなり独特だ。これだけ武道に精通したアスリートであれば、将来を嘱望した大手プロレス団体に鳴り物入りでスカウトされ、入団後はメキメキと頭角を現し彗星のごとくデビューを飾り・・・といった、いかにもプロレス的サクセスストーリーを思い浮かべるのが普通だが、実はそうではない。驚くべきことになんと志田は、女子プロレス映画の主演俳優としてスクリーンデビューを果たしているという、れっきとした”女優出身のプロレスラー”なのだ。

主演としてプロレスラーとしての技術を習得するために、アクトレスガールズという実際の女子プロレス団体で手ほどきを受けて撮影に臨んだ。もともと志田は映画出演を果たす目標であったため、自身がプロレスラーになるということは全く考えていなかったらしいのだが、無事撮影を終えて公開された自身の映画を劇場で観た瞬間に、プロレスラーになる決意を固めたのだというから面白い。もし彼女が映画出演のために女子プロレスラー役を目指さなかったとしたら、あるいは今現在の志田光が存在しなかったかもしれないことを考えると、非常に感慨深いエピソードではないだろうか。

コロナウィルスの猛威が世界中を覆った2020年当時、志田は無観客試合という過酷な条件の中でも、全力のパフォーマンスとファイトスタイルを見せ、悲願であった自身初のAEW女子王座を獲得する。だが、そこはアメリカンプロレス。日本人レスラーである彼女の王座戴冠はまぐれであり、無観客試合という特殊な状況も相まって、「パンデミック・チャンピオン」と揶揄され、失意のうちに王座から陥落してしまう。だが、そこからが志田の真骨頂というべきだろう。

主要ケーブルテレビ網では放送されないダークマッチなどでも、志田はひたむきに試合をこなし続ける。アメリカのプロレス団体の巡業、いわゆる興行のサーキットはまさに過酷の一語に尽きよう。当時は週に2度のテレビ放送のための大会が文字通り全米各所で行われ、皮肉なことに人気レスラーともなれば、ほぼ全ての大会に帯同する必要が生じる。数多くの試合をこなす身体の強さはもちろん、なによりその強靭な精神力こそがスターレスラーの必須条件でもあるのだ。

その後、志田は2度に渡る王座奪取を果たし、再び頂点へと返り咲くことになる。AEWにおいて女子世界王座を通算3度も戴冠したレスラーは志田光が初めてであり、奇しくもその試合は、AEWのメイン番組である「Dynamite」の放送200回記念の大会のメインイベントとして組まれたものであり、志田による女子史上初の戴冠劇の快挙は、団体最大のプッシュを受けて大々的に祝福された。さらに、AEWが史上最大規模で開催したイギリス・ロンドンのサッカースタジアムの聖地、ウェンブリー・スタジアムに8万人の大観衆を集めて開催された「ALL IN」大会において、志田は堂々女性世界王者として防衛戦のリングに立っている。志田がいかにAEWのトップレスラーとして認知されているかを、十分に伺い知ることができる。

さらに志田は、今年6月に上演された演劇「モノクロの涙」の舞台にも出演、初の演出も手掛けるといったマルチぶりを発揮しつつ、その傍ら日本の女子プロレスの興行にスポットで参戦するなど、日米をまたにかけたプロレスラーとしての本来の姿も健在だ。そして6月29日にはおよそ半年振りとなるAEWのリングに再登場し、1999年リング上の演出の際の不慮の事故で還らぬ人となった故オーエン・ハートの名を冠したトーナメントにおいて、見事初戦を突破してみせた。その後、惜しくも準決勝で敗退してしまったものの、やがて訪れるであろう志田の通算4度目となる世界王座戴冠を果たす姿を大いに期待したい。