理論1:感覚統合の視点から子どもの行動のなぞを解く②
○理論解説のポイント!
- 不適応行動は感覚の栄養不足から起こっている
- 子どもの行動理由を「氷山モデル」で考える
- 自分の基準を手放して五感の視点で子どもを見る
【理論解説】感覚統合に注目して考える
子どもの気になる言動の背景に何があるのかは、さまざまな視点から考えることが必要ですが、本書では感覚統合の視点から解説していきます。かんたんにいうと、感覚統合とは「感覚情報の交通整理」ということになります。
この機能により、その場そのときに応じた感覚調整や集中が可能になり、周囲の状況の把握とそれをふまえた行動(自分の体の把握・道具の使用、人とのコミュニケーションなど)ができるようになります。
この感覚統合に不具合が生じると、この適応行動がとれなくなります。感覚情報の交通整理の不具合から、子どもの行動を捉えてみましょう。
【知識・学習】見過ごされがちな感覚統合
感覚統合の問題は、発達障害または知的な遅れのあるなしにかかわらず、どの子どもにも起こり得ることです。そして、この問題は「見えない」から厄介です。
怠けている、我慢が足りない、しつけがよくないなどと解釈されがちです。すると、何度注意してもよくならないという状況が生まれ、子どもは「できない」ことを「がんばり続ける」ことになるので、自信をなくしたり、やる気を失ったりします。
このような事態を避けるには、子どもが「できない」理由を周りが理解して、教育的配慮や、適切な支援をすることが必要です。子どもも大人もストレスを減らすことができるでしょう。
大きな音を嫌がる(聴覚過敏の可能性)→子どもを理解して教育的配慮や適切な支援を行なう
【アイデア・提案】暮らしの中の五感に注目する
「感覚」と聞いてすぐに思い浮かぶのは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚という「五感」でしょう。この五感に「心地よい感覚」が取り込まれることにより、私たちは周囲の世界を理解し、安心感を得ながら生きることができます。この感覚の取り込みがうまくできなければ、安心して生活することができません。
まずは五感にとって「心地よい感覚」を得られる環境をつくることからはじめます。周囲の世界を理解し、安心感を得ることができれば、子どもは積極的に周囲にかかわっていくことができます。子どもが感覚の刺激に不安を感じてうまく取り込むことができないと、P.8 でお話しした脳の栄養が不足し、周囲の世界を知ることがむずかしくなります。
ですから、子どもそれぞれの感覚の状態にあわせ、安心して世界と接して、脳の栄養を取り込んでもらえる工夫をしていく必要があります。
ミニコラム ~シャワーを痛がった年長さん~
プール前のシャワーを極端に嫌がっていた年長の A さんに、「シャワーって痛いよね?」と聞いてみたところ、「 痛い 」とはっきり答えました。「どのくらい痛いの?」と聞くと、「針が刺さるくらい 」と返ってきました。
シャワーの水が針を刺されるくらい痛いと感じるほど、触感覚が敏感な子もいるのです。子どもと向き合うときには自分の基準を手放し、想像することが大切です。子どもの困った行動の原因は私たちの基準外に存在しています。Aさんは、たらいに水を汲んで体にかける方法で汗を流してからプールに入るようになりました。原因がわかると支援方法も見えてくるのです。
【出典】『発達が気になる子の感覚統合遊び』著:藤原里美
【書誌情報】
『発達が気になる子の感覚統合遊び』
著:藤原里美
子どもの困った行動には意味があり、感覚統合の視点から理解すると、これらは感覚情報の処理がうまくいかない結果であることがわかります。感覚統合は「発達凸凹」の子どもたちの支援に重要で、「遊び」を通じて子どもの能力を引き出す方法が強調されています。「発達が気になる子の感覚統合遊び」では、理論編と実践的な遊び編で構成されており、100以上の遊びを紹介しています。遊びを通じて子どもの情動を安定させ、成長を促すことを目的としており、子どもの理解と支援を促し、幸せな未来を共に築くために読んでおきたいおすすめの一冊です。
公開日:2024.08.02