5万6399人が現地観戦
プレス席はバックネット後方の一番奥、それも高い所に設けられていた。
肉眼ではアリほどの大きさにしか見えない。試合はリング上に設けられた大型のモニターで確認するしかなかった。
6月19日、東京ドーム。那須川天心と武尊の「ザ・マッチ」は判定で天心に軍配が上がった。
詰めかけた観客、実に5万6399人。32年前にマイク・タイソンが初黒星を喫したドームでのジェームス・ダグラス戦(WBA・WBC・IBF世界ヘビー級王座統一戦)の5万1600人を超えた。いかに、この一戦を格闘技ファンが待ちわびていたかが理解できよう。
山場は1ラウンド終了間際に訪れた。天心のカウンター気味の左フックが、これ以上ないタイミングで武尊のアゴを射抜いた。
先制のダウン。すぐに立ち上がった武尊に、大きなダメージは見られなかったが、事実上、このダウンが勝敗を決した。
武尊はスロースターターである。打ち合えば打ち合うほど、本領を発揮する。
ただ、エンジンのかかりが遅いのが玉に瑕。リングに上がった瞬間、表情が強張ったように見えたのは、過度の緊張のせいか。それを天心は見逃さなかった。
試合は3分3ラウンド(延長1ラウンド)制。ダウンを取った時点で、通常は10対8となる。武尊にすれば、残り2ラウンドで、失った2ポイントを挽回するのは至難の業だ。
2ラウンド、武尊は接近戦で天心を投げ飛ばし、口頭で注意されるなど、やや冷静さを欠いた。焦りが手に取るように伝わってきた。
それでも見せ場をつくったのは、さすがだ。最終の3ラウンド、あえてガードを解き、「来いよ!」と天心を誘った。
虎穴に入らずんば虎児を得ず――。ノーガードの顔面にワンツーをくうと、ニヤリと笑った。これが武尊である。ファイターの本懐だ。
だが、どこまでも冷静な天心はオール・オア・ナッシングの誘いに乗らなかった。
「相手が笑ったら、こう攻めてくるとか、全部わかっていた」
チーム天心は武尊を丸裸にしていたのである。
判定は5対0で天心。採点も妥当だった。
試合後、2人は抱き合い、何事かをささやき合った。「遺恨」や「因縁」といった言葉とは無縁の、後味のいい試合だった。
キックボクシングに乾杯! いくつものハードルを乗り越えてビッグマッチを実現した双方の関係者にも拍手を送りたい。
※上部の写真はイメージです。
初出=週刊漫画ゴラク2022年7月8日発売号