ずっと恐怖と戦っていた
那須川天心との“世紀の一戦”に敗れたK-1のエース武尊は、6月27日、都内で記者会見を開き、しばらく休養することを発表した。
会見では数年前に精神科で「パニック障害」「うつ病」と診断され、治療を受けていたことも明らかにした。
「(天心との)試合が決まるまでの数年間、自分の心が耐えられるのかという不安があったし、知らず知らずのうちに自分の心が壊れているのも感じていた」
「負けることが怖くて、この10年間、ずっと恐怖と戦っていた。試合の時は笑って楽しんでいられたけど、それ以外の時間は苦しさと恐怖しかなかった。だから格闘技を楽しめなかった」
心の病については、「公表するどうか悩んだ」というが「同じケガや病気で苦しんでいる人たちに、復活する姿を見せること」で、何かを感じ取って欲しい、という思いが背中を押したようだ。
武尊の告白を聞いていて、女子テニスプレーヤー大坂なおみのツイートを思い出した。昨年5月、全仏オープンを棄権した直後のことである。
記者会見を拒否した大坂は<私は2018年の全米オープンから長い間、うつ病を抱えてきました>とカミングアウトし、こうつづったのだ。
<私を知っている人は私が内向的だと知っていると思います。そして私の試合を見たことがある人は、私がよくヘッドフォンをしていることに気づいたのではないかと思います。ヘッドフォンをすることで、私は不安をまぎらわずことができるのです>
<私は人前で話すのが得意ではありません。そして世界中に発信するメディアの前で話す時、私は大きな不安の波に襲われるのです。いつも大きな不安を感じ、できる限り良い回答をしようとしてストレスを感じるのです>
恐怖、不安、重圧、ストレス……それらは武尊や大坂に限った話ではない。第一線で活躍するアスリートのほとんどが直面している問題だと言っていいだろう。
過去には不幸な出来事もあった。1964年東京五輪のマラソンで最後、英国のベイジル・ヒートリーに抜かれ3位になった円谷幸吉は、次のメキシコシティ五輪で「金メダルを獲る」と誓ったが、オリンピックイヤーの1月9日、自ら命を断った。
メンタルヘルスはアスリートにとって、古くて新しい問題である。孤独感を遠ざけ、孤立感に苛まれないようにするためには、専門家のアドバイスに加え、周囲の協力も必要である。
※上部の写真はイメージです。
初出=週刊漫画ゴラク2022年7月15日発売号