揺れるFIFA。会長発言の是非【二宮清純 スポーツの嵐】

落命した出稼ぎ労働者たち
サッカーW杯カタール大会。11月21日に行われたイングランド対イラン戦のキックオフ前、イングランド代表の選手たちがヒザ付きポーズで、人種差別に抗議するシーンがあった。
カタールは天然ガスや原油の輸出で、1990年代に入って急速な経済発展を遂げてきた資源大国だが、それを支えているのが南アジアやアフリカからやってきた、出稼ぎ労働者たちだ。
英紙デイリーメールは、スタジアムなどでの劣悪な建設現場で6500人以上の出稼ぎ労働者が命を落としたと報じ、世界中から非難が集中した。
加えて性的少数者への暴行や虐待が数多く報告され、人権保護団体から改善が求められていた。
開幕直前にはFIFA前会長のゼップ・ブラッター氏が「カタールに開催権を与えたことは間違いだった」と言い出す始末。人権侵害に対する批判の矛先はカタールのみならずFIFA本体にも向いており、賠償請求を回避したいという思惑もあるのかもしれない。
そんな中、FIFAのジャンニ・インファンティノ会長が開幕前に行ったスピーチが物議をかもしている。
「カタールから何百万、何十億と稼いでいる欧州や西側の企業のうち、何社が移民労働者の権利を当局に訴えたのでしょうか? なぜなら、法律を改定すれば、利益が減るからです。しかし、私たちFIFAがカタールから得ている利益は、これらのどの企業よりもはるかに少ないのです」
インファンティノ氏は弁護士だけあって、一理ある、と思わせる内容だ。ロシアのウクライナへの軍事侵攻により、ロシアへの天然ガス依存を大幅に減らした西側諸国は、その代替供給先をカタールに求めようとしている。それにより、カタールは以前にも増して存在感を高めつつあるのだ。
またインファンティノ氏は、こうも語っている。
「欧州は道徳的な教えを説く前に、世界中で3000年間やってきたことに対し、これからの3000年間謝り続けるべきです」
これは欧州がアジア、アフリカで行なってきたコロニアリズム(植民地主義)に対する明確な批判だが、今さら欧州がそんなことをするわけがない。インファンティノ氏が、今目の前にある人権侵害の現実から目を背け、問題の矮小化を企てようとしているのなら、それは決して賢いやり方とは言えない。W杯は、名もない人々の犠牲の上に成り立つ大会であってはならない。
※上部の写真はイメージです。
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