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「世界一」大谷翔平。伝説のフィナーレ【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

投手とDHでベストナイン

 第5回WBCでの侍ジャパンの優勝を祝うかのように、東京の桜が満開になった。

 もちろんMVPは二刀流の大谷翔平だ。投げては3試合に登板し、2勝0敗1セーブ、防御率1.86。打っては打率4割3分5厘、1本塁打、8打点。投手とDHの2部門でベストナインにも選ばれた。

 米国との決勝戦、3対2で登板した9回、真打ちが登場する。ローンデポ・パークのレフト側にあるブルペンからマウンドに上がる際、大谷はワクワクするようなシーンを頭に思い描いていた。

「2死走者なしでマイク・トラウト。それが最高の状況だと思っていました」

 アイルランド出身の作家オスカー・ワイルドによると、人間は二つの種類に分けられる、という。楽観主義者と悲観主義者だ。

 それを見分ける方法がある。ドーナツを差し出すのだ。それを見て、「うまそうだな」と身を乗り出す者は楽観主義者、食べる前に穴の大きさが気になり、「損したな」と舌打ちする者は悲観主義者。

 これは俗に“オスカーの手法”と呼ばれる性格診断テストで、米国のビジネス社会において、しばしば用いられる。採用においては、おそらく前者の方が優遇されるのだろう。

 大谷は間違いなく前者だと考える。最もおいしい場面を思い描いてマウンドに上がるのだから。

 だが少々、力が入り過ぎた。先頭のジェフ・マクニールを四球で歩かせたところで、理想のシナリオは潰えたかと思われたが、続くムーキー・ベッツを併殺に仕留めて、「最高の状況」が復活するのである。

 こうなれば、後は心行くまでトラウトとの勝負を楽しむだけだ。

 言うまでもなく、このエンゼルスの同僚は、過去3度のア・リーグMVPに輝く、MLB屈指の強打者である。

 今回のWBCにはいち早く参加を表明し、ベッツ、ノーラン・アレナド、ポール・ゴールドシュミットら精鋭が後に続いた。

「勝つために出る。優勝できなければ失敗だ」

 トラウトはその強い意志のもと、スーパースター軍団のキャプテンにも就任した。それを大谷が知らないわけがない。火花の散る対決は、日本流にいえば武蔵と小次郎の「巌流島の決闘」だった。

 勝ったのは大谷。フルカウントから投じたスイーパーと呼ばれるスライダーは、大げさでなく43・2㌢のホームベースを内から外に横切ったように感じられた。トラウトのバットが空を切った瞬間、大谷はグラブと帽子をぶん投げた。全身で示した歓喜を世界中が受け止めた。かくして大谷は一夜にして伝説となった。

※上部の写真はイメージです。
初出=週刊漫画ゴラク2023年4月7日発売号

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