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極右政党RNの影。どうなるパリ五輪【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

パリ五輪のスローガンは「広く開かれた大会」

 100年ぶりの五輪を前にフランスが揺れている。

 6月9日(現地時間)に行なわれたフランスの欧州議会選挙で、大勝したのは極右政党国民連合(RN)だった。

 この結果に危機感を覚えたエマニュエル・マクロン大統領は、機先を制するかたちで国民議会(下院)の解散・総選挙に踏み切ったのだが、第1回投票で与党連合は、またしても惨敗を喫してしまう。賭けは完全に裏目に出てしまった。

 RNの勝因は“極右色”を薄めたことだ。前身の国民戦線(FN)は、創設者ジャン・マリー・ルペンの「(ホロコーストなど)歴史の細部に過ぎない」という発言からもわかるように、当初はネオナチ呼ばわりされる泡沫政党だった。

 ところが徐々に力を付けていき、イスラム教徒の排斥を訴えた2002年の大統領選挙では、現職大統領のジャック・シラクに敗れたものの、ジャン・マリーは決選投票にまで進出した。

 RNの実質上のトップはジャン・マリーの娘マリーヌ・ルペン。問題発言を繰り返す父親を迷惑視し、ついに除名に踏み切った。今のRNは「極右」というより徐々に「右翼」にシフトしている。

 さて移民系選手の多いサッカーフランス代表は、昔からFN・RNとはそりが合わない。

「両親が国歌も満足に歌えないチームが、本当に代表チームと言えるのかね」

 96年のユーロを前に、こう疑問を呈したのがジャン・マリー。すぐさま、それに反駁したのがジネディーヌ・ジダンだった。

「この党はフランスの価値観に合わない」

 ジダンの両親はアルジェリアからの移民だ。そのアルジェリアのフランスからの独立運動を潰そうとしていたのが若き日のジャン・マリーである。時を経て両者が対立するのは目に見えていた。

 2024年ユーロ開幕前には、代表主将のキリアン・エムバペがRNを念頭に「過激なグループが権力の扉をノックしている」と批判した。

 エムバペの父はカメルーン出身、母はアルジェリア系フランス人だ。移民への締め付けを強めるRNの政策に危機感を覚えたのだろう。

 第2回投票ではマクロン率いる与党連合と左派連合が選挙協力したことでRNは勢いを失ったものの、与党連合は大敗し、今度は左派の新人民戦線(NFP)が最大勢力となった。下院は、どの陣営も単独過半数に届かない宙づり状態に陥った。パリ五輪のスローガンは「広く開かれた大会」。政治的混乱で、パリの空には暗雲が立ち込めている。

初出=週刊漫画ゴラク2024年7月19日発売号