今年もまた新しいシーズンが始まる。中でも注目されるのが昨秋のドラフトを経て入団する1年目の選手たち。
いま改めて19年ドラフトのドキュメントをここにお届けする。
中日・石川昂弥は2軍キャンプで場外弾を含め快音を連発。素材の良さを示した。そんな石川のもとに高校時代、通い詰めたスカウトがいたーー。
■19年ドラフトドキュメント⑤:誰とも結ばれぬ悲運――逸材4人を前に
12球団の1位指名が確定した裏で、オリックスの由田ス
カウトはなんともいえぬ表情を浮かべる。オ
リックスはくじで石川(昂弥)を外していた。
「石川は、下級生の時点でもドラフト1位に
入ると思っていました。あれだけのスケール
の打撃はめったにないし、大型でも動きがよ
くて三塁が守れる。自分なりにオリックスの
ウィークポイントを分析した結果、最も適し
た選手だという思いもありました。球団とし
ても1位入札に決まり、びっくりしつつ、う
れしかったんですが……」
石川にとって、ベストな球団は中日だった
はずだ。スタンスは「12球団OK」でも、生
まれ育った愛知県でプレーできれば、これに
越したことはない。
オリックスの指名は“横やり”にも見える。
だが、決してそうではない。東邦高・森田監
督の言葉からもうかがえる。
「球団としては中日が4人(※中日は地元・
東海地区に4人のスカウトがいる)で一番し
っかりと石川を見てくれていました。ただ、
スカウト個人として一番熱心だったのは由田
くん。彼とはつきあいも長いんでね」
歴史は由田スカウトの就任初年度にさかの
ぼる。2013年、東邦高の外野手・関根大
気に惚れ込んでいたが、ドラフト5位で名前
を呼ぶ直前、DeNAに奪われた思い出をも
つ。関根は翌春のキャンプでいきなり1軍に
抜擢されたから、悔しさはなおさらだった。
3年後、同校エース・藤嶋健人(現・中日)
が候補になったときも、藤嶋本人が由田スカ
ウトの顔をわかるまでになっていた。今年は
石川のもとへ何度も足を運んだ。
「担当として、僕なりのアプローチです。自
分もプレーしてきたオリックスは、全国的な
人気球団ではないかもしれません。だからこ
そ、いい選手には自分の思いを見せたい。関
東に住んでいるので完全な密着はできません
が、今年、地方で最も足を運んだのは石川の
ところでした」(由田スカウト)
スカウティングは思い通りにならない世界
だ。どれだけ通い詰めても、指名選手は担当
スカウトの一存だけで決まらない。重複すれ
ばくじに翻弄される。目をつけた選手が他球
団に先を越されることも多い。
また、ドラフ
ト1位が噂される選手ともなれば、誰が見て
もよさはわかる。それでも、己が自陣と逸材
のかけ橋になるため、靴底をすり減らした。
石川だけではない。由田スカウトは東海・
北陸地方に加え、自身が早稲田大OBのため
東京六大学リーグも担当し、さらに母校であ
る桐蔭学園高も受け持っていた。
つまり、今
年のドラフトで“いの一番”に指名された5
人のうち、佐々木を除く4人は由田スカウト
の担当だった。スカウト個人としてこれだけ
の“豊作”は、他球団を見渡してもない。
しかし必然、石川にスポットライトが当た
った時点で他の目玉とは結ばれない。
「全員獲れるなら全員獲りたいですよ……。
森下はケガしなければ2ケタ勝つでしょう
し、奥川は人間性が特にいい。森は入札で挙
がるとは思いませんでしたが、運動能力はず
ば抜けているし、よくここまで頑張ってきた
なという気持ち。みんなオリックスにきてく
れれば最高ですが、ご縁の話なので仕方ない。
オリックス戦以外で大活躍してほしいです」
⇒次回19年ドラフトドキュメント⑥「すぐ使える投手が2位に残っていた」へ続く
ドラフトドキュメント⑥(別タブで開きます)
(初出:【野球太郎No.033 2019ドラフト総決算&2020大展望号 (2019年11月27日発売)】)
執筆:尾関雄一朗
1984年生まれ、岐阜県出身。
新聞記者を経て、現在は東海圏のアマチュア野球を中心に取材。
多くの「隠し玉選手」を発掘している。中日新聞ウェブサイト『中日新聞プラス』でも連載中。
アマ野球関連のラジオ出演なども多数。
【書誌情報】
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公開日:2020.02.05