2021年シーズン。惜しくもリーグ優勝は逃したものの、日本一へ向けての闘いが続く千葉ロッテマリーンズ。その指揮官・井口資仁は、これまで監督としてチームを率いる上で、どんな思いを抱いていたのか。
開幕前、3月に上梓された書籍『もう下剋上とは言わせない~勝利へ導くチーム改革~』からその一部を抜粋してお届けする。
優秀なコーチ陣を揃える重要性
プロ野球の一軍監督の仕事とは何だろうか?
その内容は多岐にわたるが、なるべく簡潔に表現するなら、僕は「球団から与えられた戦力を駆使して、できるだけ良い成績・結果を残すこと」であると考える。
ただ、それはグラウンドレベルにおける試合に関しての監督の仕事内容だ。では試合以外のシーンにおける監督の重要職務とは何か……それは優秀なコーチ陣を揃えることだろう。
厳密に言えば、監督にコーチの任命権はない。中には、チーム編成権も持つ全権監督と呼ばれる指揮官もいるが、あくまでも特殊ケース。一般的には、コーチ人事の権限は球団側が握っている。
ただ、人事権こそないものの、実際の現場ではコーチ陣スタッフの顔ぶれに関して、ある程度、監督の希望を球団フロントへ伝えることは可能だ。
僕が監督就任に際して球団側へ提示した条件の一つが「できるだけ自分の希望通りのコーチ陣を揃えること」だった。強いチームを作る上で、それほどにコーチの存在が重要になると考えていたのである。
コーチの責任と監督の責任
選手を教えるのがコーチの仕事で、そのコーチを束ねるのが監督の仕事。
これが僕の考える、基本的な選手・コーチ・監督の関係性だ。
だから例えば、ある選手が上手にプレーできずにミスをした場合、それは担当コーチ……守備のミスなら守備コーチ、走塁のミスなら走塁コーチの責任となる。また、あるコーチが選手を上手に指導できなかったら、そのコーチを連れてきた監督である僕の責任となる。
常日頃から、プロ野球の選手たちは試合中に、コンマ数秒という感覚の世界でプレーしている。だからコーチは時として、その選手の感覚に対して、同じく感覚の世界でアドバイスを送る指導が求められる。そういう世界なので当然、選手とコーチには〝合う〟〝合わない〟といった関係性が生じてしまう。
そういう面もあるので、一人の選手を上手に指導できなかったからと言って、すぐにそのコーチの責任問題が発生するわけではないが、あくまでもごく簡単に、僕の考える理想的なチームという組織内の相関図を説明すると、このような選手・コーチ・監督の関係性になるわけだ。
だから、現在のマリーンズでは、例えば試合でミスをした選手を僕自身が直接注意するようなシーンはまずありえない。技術指導に関して……たとえばたまにバッティングに関して選手にアドバイスを送ることはあっても、選手を直接叱った経験は過去3年間の監督生活の中で一度もない。
ーー次回、コーチの人選基準とは?「監督の役割.2」へ続く
出典
『もう下剋上とは言わせない~勝利へ導くチーム改革~』著/井口資仁 日本文芸社刊
記事内容は21年3月の書籍出版時点のもの。
書籍情報
『もう下剋上とは言わせない~勝利へ導くチーム改革~』
著者:井口資仁 日本文芸社刊
井口監督が目指す常勝チームの姿とは?
現役時代、大リーガーとしてワールドシリーズ制覇に貢献した千葉ロッテマリーンズ井口監督の改革と手腕に迫る。
ロッテは日本代表メンバーが選手にいないにも関わらず、2020年シーズン、2位を獲得した。
コロナ禍にも見舞われ、若手主体の戦いを余儀なくされた裏で、いったい井口監督は何を実行していたのか?
監督就任以来実行してきたコーチングスタッフの引き抜き、球場施設の整備・変更、練習内容の充実、選手の体調管理、フロントへの提言、ドラフトへの要望、若手の育成指導、ミーティングの進め方、試合分析などを完全網羅する。
公開日:2021.10.29