蛍の光で見えた美貌(蛍)
折に触れて源氏が言い寄るので、玉鬘は嫌になっていました。かと思うと、源氏は親のようなことも言い、来た文のうち、兵部卿宮には返事を出しなさいなどと指示します。源氏は女房に代筆させて、兵部卿宮への返事を書かせました。喜んだ兵部卿宮が、夕方に訪ねてくることになりました。源氏は隔てるものを几帳だけにして二人の会う場所を整えたり、香を焚いたりして、いそいそと準備します。兵部卿宮が来ても、玉鬘は相手をする気になれず、源氏も近づいて来そうなので困って几帳の側に横になります。
そのとき、源氏が几帳を上げ、用意していた多くの蛍を中に放ったので、玉鬘の美しい横顔が蛍の光に照らされて浮かび上がりました。それを見た兵部卿宮は、心を奪われたのでした。玉鬘は、ことさらに兵部卿宮を好むわけではないものの、言い寄る源氏から逃れるためか、宮の和歌にも少し応じます。世間からは源氏の実子と思われている、いまの状況で、言い寄られるのはつらいと思い悩むのでした。
5月5日、源氏は六条院で競射を催し、夜は花散里の御殿に泊まりました。しかし、花散里は床を源氏に譲って共寝はしません。すでに男女の仲は不似合いだと、女は思っているのでした。五月雨の中、源氏は玉鬘を訪ね、物語を書き写している玉鬘をからかい、物語談義をしました。そのころ、内大臣は行方知れずの玉鬘を探していましたが、手がかりはつかめないままでした。
競射・・・弓の技術を競う催し物。
平安時代の人々と蛍の光
蛍と日本人のかかわりは古く、蛍が登場する最も古い文献は、720年に成立した『日本書紀』に文字が見えるが、さらに身近な存在になるのは平安時代のころからだとされている。平安時代中期に成立した『うつほ物語』には帝が蛍の光で尚侍を見たエピソードもある。玉鬘がやがて尚侍になることから関連性がうかがえるが、平安時代には似た話や歌を典拠として新しいものをつくるのが創作の基本的な方法だった。
蛍と魂
平安時代、蛍を死者の魂と見る発想もあった。和泉式部(いずみしきぶ)には、蛍を身体から抜け出した部分の魂と見る歌もある。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』高木 和子
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』
高木 和子 監修
平安時代に紫式部によって著された長編小説、日本古典文学の最高傑作といわれる『源氏物語』は、千年の時を超え、今でも読み継がれる大ベストセラー。光源氏、紫の上、桐壺、末摘花、薫の君、匂宮————古文の授業で興味を持った人も、慣れない古文と全54巻という大長編に途中挫折した人も多いはず。本書は、登場人物、巻ごとのあらすじ、ストーリーと名場面を中心に解説。平安時代当時の風俗や暮らし、衣装やアイテム、ものの考え方も紹介。また、理解を助けるための名シーンの原文と現代語訳も解説。『源氏物語』の魅力をまるごと図解した、初心者でもその内容と全体がすっきり楽しくわかる便利でお得な一冊!2024年NHK大河ドラマも作者・紫式部を描くことに決まり、話題、人気必至の名作を先取りして楽しめる。
公開日:2023.06.25