スワローズの43歳・石川雅規とホークスの42歳・和田毅
古田敦也や髙津臣吾、尾花高夫らを獲得したことで知られるスワローズの名スカウト片岡宏雄は生前、「左投手の130キロは右投手の135キロ、いや140キロに相当する」と語っていた。
その典型が、球速130キロ程度ながら、通算93勝17セーブをあげ、1978年の球団創設初優勝、日本一に貢献したサイドスローの左腕・安田猛である。
早大から大昭和製紙を経て72年、ドラフト6位でヤクルト入りした安田を担当したのが片岡だった。
「球は遅かったけど、思い切りは良かった。ちょっとリリーフというか、ワンポイントくらいの軽い気持ちで獲ったのですが……」
当時の監督は知将・三原脩。ブルペンでの安田のピッチングを見るなり、片岡に詰め寄ったという。
「おい、これは本当にピッチャーか!」
「はい、ピッチャーです。試合になったら、そこそこやります」
そこそこどころではない。王貞治キラーとして名を馳せ、入団から2年連続で最優秀防御率投手に輝いている。
「左投手はね、ストライクさえ入れば何とかなるんです。150キロのボールなんて必要ありませんよ」
それが片岡の口ぐせだった。
今季のプロ野球、両ベテラン左腕の活躍が光る。スワローズの43歳・石川雅規とホークスの42歳・和田毅だ。
石川は6月20日現在、7試合に登板し、2勝4敗、防御率4.13。対する和田は9試合に登板し、5勝2敗、防御率2.98――。老獪なピッチングでバッターを手玉にとっている。
2人に共通するのは「遅いボールを速く見せる」テクニックだ。緩急、強弱の付け方が絶妙で、時折、投げ込む右バッターのヒザ元へのストレートは、スコアボードに表示された球速より5キロから10キロは速く見える。右肩が最後まで開かないため、バッターはボールの出所が掴みにくい。2人ともサウスポーのアドバンテージを最大限使用しているように映る。
周知のように、2人は97年夏の甲子園で投げ合っている。今から27年も前の話だ。この時は3年生エース石川の秋田商高が2年生エース和田の浜田高(島根)に4対3でサヨナラ勝ちを収めている。サヨナラの押し出し四球を選んだのが石川だった。
「(この試合を)見ていた人の誰もが、まさか2人がプロで投げ合うとは思っていなかったでしょうね」
とは石川。サウスポーの“のびしろ”は、こちらが考えている以上に大きいのだ。
初出=週刊漫画ゴラク2023年6月30日発売号