異なるゲノムが混ざり合った「キメラ生物」は実在する?
自然の摂理から外れた生物たち
「キメラ」といったら『ドラゴンクエスト』シリーズに登場する、あのモンスターを思い浮かべる人も多いかもしれません。ある意味、それも間違いではないのですが、その原点ともいうべき存在がギリシア神話に登場する架空の怪物「キマイラ」です。ヤギの胴体にライオンの頭、尻尾は大蛇という異形をしていたことから、のちにその名は生物学において「複数の生物の特徴を併せ持つ」という意味を持つ「キメラ」の語源になったといわれています。ですが、実際にそんな生物は存在するのでしょうか?
神話のキマイラとはだいぶイメージが違いますが、種として近い動物同士を交配させ、いわゆるキメラ生物(=雑種)をつくり出すという試みは世界中で長年にわたって行われてきました。その成功例のひとつとされているのがラバです。ロバとウマの交雑種であるラバは、非常にタフで強い脚力と蹄を持ち、賢く経済的でもあったことから、主に南北アメリカや中国などで優秀な荷役として重宝されてきました。
一方で交雑によって生まれた生物の中には、先天的な心疾患や骨の発育障害、不妊などの問題を抱えた個体も多く、次第に交雑自体が倫理的に疑問視されるようになっていきました。そのため現在では研究目的以外での交雑、およびその飼育はほぼ行われていません。
キメラの語源はギリシア神話の怪物
生物学における「キメラ」の語源となったのはギリシア神話『イーリアス』に登場する架空の怪物「キマイラ(Chimaera)」です。ヤギの胴体にライオンの頭、尻尾は大蛇という姿をしており、口から火炎を吐く魔獣として描かれています。その異形から「異質なものの合体」という意味で「キメラ(生物)」という言葉が生まれたといわれています。
交雑により生み出されたキメラ生物(雑種)たち
かつては交雑により新たな生物をつくり出す試みが積極的に行われていましたが、生殖能力の欠如、先天性の疾患など問題点も多く、次第にこうした試みは行われなくなりました。一方、ラバは優れた荷役として今でも一部の地域で活用されています。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 遺伝の話』著:安藤 寿康
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 遺伝の話』
監修:安藤寿康
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公開日:2024.11.26