「同一シーズンでのホームラン王とサイ・ヤング賞」の期待
今シーズン、MLB史上初の「50-50」(50本塁打・50盗塁)を超える「54-59」を達成し、夢にまで見たMLBチャンピオンリングを手に入れたロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平。ニューヨーク・ヤンキースとのワールドシリーズ第2戦で二盗を企図した際、左肩を脱臼するというアクシデントに見舞われながら、最後まで試合に出続けたガッツと責任感には、頭が下がる思いがした。
来シーズンも、今シーズン同様「1番DH」で出場し続ければ、十分2度目の「50-50」は達成可能だろう。いや、ひょっとすると「54-59」を超えるかもしれない。それくらいのポテンシャルを打者・大谷は秘めている。
しかし、来シーズンから大谷は本業のピッチャーに戻る。2度目の「50本塁打」は望めるとしても「50盗塁」は、今シーズンで見納めかもしれない。
というのも盗塁の際、内野手と接触して、あるいは体勢を崩してケガでもされたらベンチはたまったものじゃない。ベンチから「レッドライト」のサインが出ることはあっても、「グリーンライト」のサインが出ることは、まずないだろう。
そんな中、「同一シーズンでのホームラン王とサイ・ヤング賞」を期待する声が、方々から上がっている。実現すれば、夢のまた夢のような異次元の偉業だが、あるゆる不可能を可能にしてきた大谷なら達成できるのではないか。そんなファン心理が働いているようだ。
ギリシャ神話に出てくるミダス王の逸話が頭に浮かぶ。この御仁は、身体に触れたもの全てを黄金に変えることができた。
大谷がそうではないか。バットを持てば、誰よりもボールを遠くへ飛ばすことができ、ボールを握れば誰よりも凄いボールを投げることができる。彼が打ち立てた数々のMLB史上初の記録は、どれもが黄金の輝きに満ちている。
ところでミダスタッチには、こんな教訓もある。
「人の欲望には限りがないので、あまり欲を持ち過ぎてはいけない」
大谷がプロ野球で“二刀流”に挑戦しようとした時、多くのOBや評論家が「二つともやるとは欲張りだ」「二兎を追うものは一兎をも得ず」と辛辣な評価を口にした。中には「プロ野球をなめるな」と激怒した大物OBもいた。
だが、この不世出の逸材を過去のモノサシで測ることはできなかった。
この先、ショーヘイ・オータニはどこに向かうのか。あらゆる願望を、実現してみせる力。それはミダス王をも超えている。
初出=週刊漫画ゴラク2024年11月22日発売号