「ノックオン」は「ノックフォワード」に
ラグビーはワールドワイドなスポーツだから、用語の統一は当然だろう。もっとも中には、継続使用してもいいのに、と思うものもある。
日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事は、先頃、国際統括団体のワールドラグビーが定める用語に統一するよう、国内の加盟団体に通達した。
これにより、ボールを前に落とす反則の「ノックオン」は「ノックフォワード」に、タックルで倒れた選手からボールを奪い取る「ジャッカル」は「スティール」に変更される。
まず「ノックオン」だが、ラグビーを初めて観戦する者が、真っ先に覚える反則がこれだ。贔屓チームがチャンスでこの反則を犯すと、スタンドは大きなため息に包まれる。「痛恨の」という枕詞が最も似合う反則でもある。
記憶に新しいのは、2023年W杯フランス大会でのひとコマ。日本対イングランド。日本が12対13の後半16分。イングランドのパスワークが乱れ、ウィル・スチュワートが捕球し損なったボールがジョー・マーラーの前頭部を直撃した。
前に落ちたボールを後方にいたコートニー・ローズが拾い上げ、そっとインゴールに置いた。ホイッスルが鳴らないのに敵も味方も足が止まったのは、マーラーのヘディングをノックオンと見誤ったためだ。スチュワートの落球もノックオン臭かった。
しかし、審判団が映像判定した結果、スチュワートの落球はお咎めなし。このトライを機に点差を広げられた日本にとっては「痛恨の」判定となった。
続いて「ジャッカル」。これは19年W杯日本大会、23年W杯フランス大会で主にナンバー8として出場した姫野和樹の十八番だ。彼がこのプレーを連発したことで、日本でもポピュラーになった。
なぜ立ったまま敵からボールを奪い取るプレーが「ジャッカル」なのか。文字通り、動物のジャッカルに由来する。獲物を素早く捕食する姿に似ており、日本でもプレーした元豪州代表のジョージ・スミスが得意としていた。彼のニックネームも「ジャッカル」だった。
このプレーにはワイルドな魅力があり「ジャッカル」という名称はぴったりだった。それが「スティール」(盗む)とは……。興ざめなこと、この上ない。
同じフットボールでも、サッカーに比べるとラグビーのルールは複雑だ。それが新たなファンを獲得する上で、参入障壁になっている面もある。
日本人にも馴染みの深い「ノックオン」や「ジャッカル」というラグビー用語が消えることに一抹の寂しさを覚えるのは私だけか……。
初出=週刊漫画ゴラク2025年1月24日発売号