豊昇龍と大の里。大相撲黄金時代【二宮清純 スポーツの嵐】

東西両横綱が揃えば31場所ぶり

 東西の両横綱が、千秋楽に賜杯をかけて激突してこそ大相撲は盛り上がる。

 夏場所で2場所連続4度目の優勝を遂げた大関・大の里が横綱(第75代)に昇進したことで、7月に始まる名古屋場所は東横綱を豊昇龍が、西横綱を大の里が張ることになるだろう。東西両横綱が揃えば、2020年の名古屋場所以来、実に31場所ぶりだ。

 日体大出身の大の里は23年夏場所、幕下付け出し初土俵から所要13場所で最高位の横綱に駆け上がった。これまで、同じ石川県出身で大卒(日大)の輪島が持っていた21場所を大幅に更新した。

 日本出身横綱としては、師匠の二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)以来、8年ぶりだ。

 身長192センチ、体重191キロの偉丈夫。幕内最重量の大の里を湊川親方(元大関・貴景勝)は、「パワーで持っていった人は見たことがない」と語っていた。

 それも、ただ前に出るだけではない。足腰が柔軟で、フットワークも軽い。ボクシングにたとえるなら、重量級のパワーと軽量級のスピードを兼ね備えており、大鵬や北の湖に匹敵する逸材といっても過言ではない。

 相手を引き込み、はたくという悪弊も時に顔をのぞかせるが、逆に言えば、それだけ懐が深く、相手をよく見ている証拠だろう。

 その大の里が、苦手としているのが1歳年上の豊昇龍だ。これまでの対戦成績は不戦勝を除き1勝6敗。自身初の全勝優勝をかけた夏場所千秋楽でも、上手ひねりで敗れた。得意の双手突きで横綱の上体を起こし、押し込んだまでは良かったが、右に逃げる豊昇龍に左上手を掴まれ、転がされた。

 豊昇龍はこの場所、12勝3敗に終わったものの、結びの一番で意地を示した。

 周知のようにモンゴル出身の豊昇龍は、25回の優勝を誇る元横綱・朝青龍のおいである。レスリングの留学生として日本にやってきた豊昇龍少年に稽古をつけた日体大柏高元相撲部監督の永井明慶から、こんな逸話を聞いた。

「彼が入学したばかりの5月、大相撲を観戦するため国技館へ連れていった。その日は、横綱・日馬富士が負けてざぶとんが舞った。その雰囲気に感動したようで、僕に相撲をやらせてくださいと言ってきましたよ。おじさんは、すごい舞台で相撲をとっていたんだ。そして勝ち続けてきたんだと……」

 大の里は豊昇龍を「ライバルというか超えなければならない壁」と見なしている。切磋琢磨することで、土俵に令和の新風を吹き込んでもらいたい。

 

 

初出=週刊漫画ゴラク2025年6月13日発売号

この記事のCategory

インフォテキストが入ります