肥大、過形成、萎縮、化生のしくみ
細胞は、体に刺激や損傷があると、大きくなったり、増えたり、小さくなったり、時には姿を変えて、なんとか頑張って生き抜いています。そのような細胞の適応現象はいろいろあります。
そのような細胞の適応現象はいろいろあります。筋肉の細胞は分裂することができません。ところが、筋トレをすると骨格筋や筋肉が大きくなります。これは細胞の数が増えるのではなく、細胞のサイズが大きくなることによって筋肉が大きくなっているのです。このように細胞が大きくなる現象を「肥大」と呼びます。
一方、妊娠しておっぱいが大きくなるのは、乳腺の細胞がホルモンの影響で分裂して細胞数が増えた結果として大きくなるのであって、個々の細胞が大きくなるのではありません。これは形成がすぎるという意味で「過形成」と呼ばれます。
この2つの例は、どちらも病気ではありませんから、「生理的肥大」「生理的過形成」といい、病気によって生じる状態は、「病理的」という言い方をします。
例えば、高血圧の人は心臓に圧がかかって心筋細胞が肥大します。心臓が病的な状態にさらされているので、心筋細胞が肥大することで機能を代償してくれているのです。これを「病理的肥大(心臓肥大)」といいます。
「萎縮」は逆に細胞が小さくなることです。結果として臓器が小さくなる場合は「臓器萎縮」といいます。
長期の安静や運動不足によって筋肉は痩せてきます。このような萎縮を「廃用萎縮(筋萎縮・骨萎縮)」といい、老化に伴う萎縮は「生理的萎縮」で「老人性萎縮」ともいわれます。
ほかにも、「栄養障害萎縮」「圧迫萎縮」「神経性萎縮」などがあります。どのように細胞が萎縮するかというと、細胞内小器官を消化しながら小さくなっていきます。
つまり、ただ小さくなるだけでなく、自分の一部を食べてエネルギーにしながら、窮乏状態に耐えるようになっていくのです。これを、「オートファジー(自食作用)」と呼んでいます。2016年、大隅良典博士は「オートファジーのしくみの解明」により、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 病理学の話』
著:志賀 貢
シリーズ累計発行部数150万部突破の人気シリーズより、「病理学」について切りこんだした一冊。病理学とは「病(気の)理(ことわり)」の字のごとく、「人間の病気のしくみ」です。コロナウイルスが蔓延する中で、人はどのようにして病気になるのかが、改めて注目されています。細胞や血液、代謝や炎症、腫瘍、がん、遺伝子などと、人体のしくみ・器官、食事を含む生活、加齢などさまさまな環境との関連から、「病気」を解明するもの。専門書が多いなか、病気とその原因をわかりやすく図解した、身近な知識となる1冊です。
公開日:2020.10.11