最澄と空海の交流を知る唯一の史料 、「久隔帖」と「風信帖」に込められた想いとは【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

最澄と空海が交わした歴史に意義深い書状!

2人の交流を知る唯一の史料 ──「久隔帖」と「風信帖」

 「久隔帖(きゅうかくじょう)」(国宝)とは、伝教大師と呼ばれた最澄(767〜822年)が、弘仁4年(813年)11月25日、47歳時、神護寺(京都=高野山寺)の弘法大師、すなわち、空海(774〜835年)のもとで修業中の愛弟子、泰範(778?〜没年不詳)に対し書き送った書状である。書き出しの「久隔清音」(久しく便りがないこと)から文字を借りて「久隔帖」と称せられるとか。いうまでもないが、書状は肉筆、現存する史料としては唯一のものである。

 詳しく内容を見てみると、空海が40歳を賀してつくった五八詩の序文の中に書かれている「一百廿禮仏」とは何かとか、「方円図(法身礼図)」という図の意味が不明なので聞いてほしいとか、最澄自身、和詩をつくりたいが、必要な「釈理趣経」など、経典の借覧をお願いできないか聞いてほしいとか、泰範を通じて空海に依頼する文章になっている。また、「法華梵本」を手に入れたのでご覧に入れたいと書き加えている

 7歳年上、唐留学僧としても先輩格の最澄が威を張らず、端正実直、自然な書きぶりには人柄が滲み出ている。空海の目に触れることを意識して認めた書状であろう。その筋の専門家諸氏によれば、「その筆致は中国の書聖王義之の書に範を求めたものであり、三筆(空海・嵯峨天皇・橘逸勢の書に並ぶ名筆である」(『日本大百科全書』)。確かに正しく学んだ人の清浄な気が漂う名筆である。

 また、空海が最澄に宛てて自ら認めた3通の自筆書状「風信帖」は自筆書状を総称したものだが、最澄と空海という2人の日本仏教史に偉大な足跡を残す僧侶が、唐から帰国後、どんな交流があったのかを知る唯一無二の史料となっている。それぞれ個性豊かな大人物だが、親しい交友関係にあったことを伝える好史料であろう。

王義之=西暦4世紀前半の中国・東晋の書家。魏晋南北朝時代の門閥貴族、王一族出身。古来
の書に馴染み、伝統を重視し、楷書・行書・草書・章草・飛白を神品とした。


最澄筆『久隔帖』

昭和26年(1951年)に国宝指定/奈良国立博物館所蔵

「久隔帖」の筆致は、唐時代に書の手本とされた東晋時代(317〜420年)の書家で書聖と謳われた王羲之(303〜361年)の書風の影響を指摘されている。平安時代初期・弘仁4年(813 年)の書状。一幅紙本墨書。縦29.3cm・横55.2cm。

 「久隔帖」は最澄直筆書状として現存する唯一のもの。宛先は空海のもとで修行していた弟子の泰範だが、実際には空海から贈られた詩に不知の「一百廿禮仏」などがあるので、「返歌するのにその図儀(作法の図解など)や大意を聞いて知らせてほしい」との依頼。最澄47歳、空海より7歳年長ながら空海を「大阿闍梨」と崇敬するなど礼を尽くす書き方をしている。

 この場合の大阿闍梨は、密教でサンスクリット語の師範を意味する「アーチャリー」で、「伝法灌頂」を受けて法統を継いだ高僧を意味する。この書状は最澄の謙虚で誠実な人柄が滲み出たものとして評価されている。


空海筆『風信』

昭和26年(1951年)に国宝指定/京都市教王護国寺(東寺)所蔵

「風信帖」の意義は、空海と最澄という平安仏教に偉大な足跡を残した傑出僧の深い交誼と宗教思想を垣間見せた貴重な史料としての価値にある。平安時代初期・弘仁元年(810年)から3年(813年)にかけての書状。一巻紙本墨書。縦28.8cm・全長157.9cm。

 「風信帖」は空海が最澄に宛てた3通の書状を1巻にまとめて総称したもの。1通目「風信帖」、2通目「忽披帖」、3通目「忽恵帖」。風信帖の名は、書き出しに「風信雲書、自天翔臨」とあり、そこから付けられた。意味は「風のような便りや雲のような書が、天から自分に舞い降りてきた」となる。

 この書は空海の真筆の中でも円熟期のものと評価されるが、王羲之の書風に倣いながらも、唐最盛期の顔真卿(709〜785年)の書風も習得。さらに独自に達した書風が見られるという。「風信帖」は、当初、天台宗比叡山が保持していたが、文和4年(1355年)に東寺に寄進された。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』著:鈴木 旭

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』
著:鈴木 旭


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