「不安」を俯瞰できる、新しい自分をインストールしよう『今度こそ「不安ぐせ」をゆるめるポリヴェーガル理論』浅井咲子先生インタビュー【後編】


『今度こそ「不安ぐせ」をゆるめるポリヴェーガル理論』(日本文芸社)の著者、浅井咲子先生は、ポリヴェーガル理論の提唱者である神経科学者スティーブン・W・ポージェス博士に直接教えを受けた経験も。「不安ぐせ」を改善するにはどんなアプローチをしていくのでしょうか。
(前回の記事はこちらから)
写真:浅井咲子先生提供 取材・文:高島直子
安心の土台となる腹側迷走神経は育てるもの
——本にはたくさんのワークが紹介されていますが、どれも簡単なものばかりですよね。本当にこれだけでいいの!?とおどろきです。
浅井 ふふ。簡単でいいんですよ。ポリヴェーガル理論では、ひとりでリラックスしているときに働く背側迷走神経と、だれかと一緒にいて安心感や楽しさを覚えるときに働く腹側迷走神経をほどよく働かせていくことが「不安ぐせ」を和らげるカギとなります。
だからがんばって毎日やらなきゃいけないものではないんです。ワークをすることがストレスになってしまったら本末転倒です。優しく、少しずつ、できる範囲で体に「安心」の神経をインストールしていくイメージです。
そうそう、3つの自律神経のうち、つながりにより安心感を得る腹側迷走神経だけは、最初からある神経ではなく育てていく神経なんですよ。20歳までの間にたくさん刺激してあげることで「一緒にいると安心」という神経が発達していきます。逆に、適切なコミュニケーションがない環境で育つと腹側迷走神経が発達せず、「不安ぐせ」の原因となることも。

——20歳をすぎたら、腹側迷走神経はもう発達しませんか?
浅井 そんなことはありません。大人になってからでも腹側迷走神経を育てることはできますよ。
人と話したり、握手をしたりできればいいですが、コミュニケーションが苦手な場合は、誰かの歩調に合わせて歩いてみる、ぬいぐるみを抱っこするなど、ひとりでこっそりできるワークもあります。無理のない範囲で試してみるとよいでしょう。
自分に合ったワークを見つけよう!
——おすすめのワークなどはありますか?
浅井 私自身、いちばん不安になるのは講座の直前なんです。「ちゃんと準備できているかな」「伝わるかな」と気になってしまって、心にも体にも余裕がなくなってしまうんです。
そんなときによくやるのが「肝臓タッチ」や「8の字呼吸」です。

——道具もいらないし、短時間でできるのがいいですね!
浅井 鼻唄もおすすめです。思い切って演歌を歌ってみるのもいいですよ。こぶしがのどを刺激してくれるんですよね。自然と神経が整っていくのがわかります。

——ワークはいつも同じものでもいいのですか?
浅井 その日の自分に合っていれば何でもOKです。毎日同じワークでもいいし、「今日はなんだか違うな」と思ったら違うワークにしても大丈夫。
大切なのは、「今の私、何を欲しているのかな?」と自分に聴いてあげることです。
不安は〝気づきのサイン〟
——ワークなどで不安や緊張、イライラをコントロールできるようになると、怖くはないですね。
浅井 そうですね。そもそも「不安」はあって当然のもの。ある本で読んだのですが、「不安を感じるというのは、サイコパスではない証」なのだそうです。
——不安を感じないことのほうが不安?
浅井 そうそう。それくらい「不安」は人間らしさの一部ということです。だから、不安になったときは、「私、ダメだな」と責めるのではなく、まずはそっと自己調整のツールを試してみてください。呼吸でも、動きでも、音楽でも。そして落ち着いたら、その不安が「何を伝えようとしているのかな?」と耳を傾けてみましょう。
不安はあなたの体がキャッチした〝気づきのサイン〟です。
何を危険と感じているのか、何におびえているのか、いえ、もしかしたら何かのチャンスを感じ取っている可能性だってあります。不安を怖がるのではなく、寄り添って向き合っていけるものになればいいなと思うのです。

これまでマイナス要素ととらえていた不安ぐせ。ポリヴェーガル理論では動物として当たり前の反応ととらえ、むしろなくてはならないものだとさえ思えてきます。自分を無理やり変える必要はない、自分を信じてその感覚に寄り添えばいいというのは、とてもやさしい考え方ですね。本書を通して、不安ぐせをゆるめ、味方につける方法を、あなたもぜひ見つけてください。
【著者紹介】
浅井咲子(あさい・さきこ)
公認心理師、神経セラピスト。立教大学卒業後、外務省在外公館派遣員として在英国日本国大使館勤務。その後、米国ジョン・F・ケネディ大学院にて、カウンセリング心理学の修士課程(身体心理学専攻)を修了。オークランドの地域カウンセリングセンターにて研修を行う。
帰国後、教育センターや企業内で相談員として勤務。2008年、セラピールーム「アート・オブ・セラピー」を設立し、自己調整とレジリエンスのある生活を提案し続けている。著書に『不安・イライラがスッと消え去る「安心のタネ」の育て方』(大和出版)、『「今ここ」神経系エクササイズ』『「いごこち」神経系アプローチ』(梨の木舎)、翻訳書に『子どものトラウマ・セラピー』(雲母書房)、『レジリエンスを育む』『発達性トラウマ治癒のための実践ガイド』(岩崎学術出版社)、『トラウマによる解離からの回復』(国書刊行会)など。
ブログ https://ameblo.jp/artoftherapy/
HP「ART of therapy」 https://assakijp.wixsite.com/artoftherapy
【本記事の取材・文】
高島直子(たかしま・なおこ)
フリーランスライター・編集者。生きもの、こども、料理などのジャンルを中心に、幅広く書籍や雑誌の制作に携わる。
【書誌情報】
『今度こそ「不安ぐせ」をゆるめる ポリヴェーガル理論』
著:浅井咲子
3つの自律神経を味方につけて
〈不安ぐせ〉を〈安心ぐせ〉に変える!
「次から次へと心配ごとがでてくる」
「ニュースやSNSで不安になりがち」
「イライラする」
「ストレスに弱い」
「気持ちの浮き沈みがはげしい」
「やる気が起きない」
などの〈不安ぐせ〉を抱える人へ。
ポリヴェーガル理論は、ステファン・ポージェス博士によって提唱された自律神経系の神経理論です。
自律神経を、1つの交感神経と2つの副交感神経(背側迷走神経と腹側迷走神経)の3つで捉えます。
本書では「セオリー」「テクニック」「ワーク」に分けてわかりやすく紹介します。
セオリー
→難解なポリヴェーガルを、イラスト図解を使いながらわかりやすく解説。用語もなるべくかんたんに紹介します。
テクニック
→「眼輪筋を動かす」「相槌は高めの音程で」など、ポリヴェーガル理論を活かした会話術、仕事術、休み術などを紹介します。
ワーク
→「脳幹タッチ」「太陽をのみこむ」「人と歩調を合わせる」など、日常のなかのちょっとした工夫でほっと気持ちを落ち着けるコツを紹介します。
本当は必要ではないのに過剰に防衛したり、考えても仕方がないことにイラっとしたり、不安になったり。
そうしたもったいない時間を減らして、「今ここ」にある幸せを感じ、安心できるようになるためのメソッドです。
【イラスト/まんが制作】
高木ことみ(たかぎ・ことみ)
ゆるくてかわいいイラストを制作するイラストレーター。とくに、難しい内容を図やイラストを用いてわかりやすく伝えることが得意。見ている人に親しみを感じてもらえるような表現を心がけている。おもな作品に『ゆるゆる稼げるWebライティングのお仕事はじめかたBOOK』(技術評論社/表紙・本文イラストを制作)など。
note https://note.com/t_kotomi
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