読売VS日産の攻防。「1ミリ作戦」発動【二宮清純 スポーツの嵐】

日本人初のプロ契約監督、加茂周
「日産は横浜F・マリノスの筆頭株主であり続けます」
さる10月3日、F・マリノスの親会社である日産自動車から先の発表があった。身売り報道を沈静化させる狙いがあるようだ。
ただし「財務的な持続可能性を高めるため、長期的な戦略の一環として、株主構成の強化について積極的に検討しています」とも。
現在、日産は球団株の75%を保有している。「株主構成の強化」というからには、有力企業に株式の取得を働きかけているのだろう。横浜市に本社を置く家電量販店大手の「ノジマ」が既に候補にあがっている。
F・マリノスに売却話が持ち上がったのは、これが初めてではない。1999年10月にCOO(最高執行責任者)となったカルロス・ゴーンがリバイバルプランを策定した際にも俎上に載せられた。
だが、この時は2002年に日韓W杯が控えており、事前の盛り上がりに水を差すべきではない。売却した場合、社員のモチベーションに影響するーーなどといった意見が相次ぎ、日産本体へのレピュテーションリスクも考慮した結果、ゴーンは売却を見送ったと言われている。
さてF・マリノスの前身である日産自動車サッカー部が創部されたのは1972年。7年後の79年にJSL1部に昇格した。
このクラブの歴史を語る上で抜きにできないのが、74年に日本人初のプロ契約監督となった加茂周である。
加茂がターゲットに定めたのが読売サッカークラブ(現東京ヴェルディ)。自著『モダンサッカーへの挑戦』(講談社)から引く。
<当時、読売はすでに日本リーグで二回の優勝(83、84年=筆者注)を飾り、個人技、試合運びのうまさ、試合に対する自信で、日産としては一歩も二歩も及ばない存在だった。善戦することはあっても、勝てる相手ではなかった>
そこで加茂は「1ミリ作戦」を思いつく。<練習グラウンド、クラブハウス、寮、食事、給料、勝利ボーナスから、遠征や合宿のホテル、交通機関まで、ありとあらゆるもので読売より「1ミリ上回る」>ことで苦手意識を払拭しようとしたのである。
その精華が88年度の国内三冠(JSL、JSLカップ、天皇杯)である。クラブ史上初の快挙だった。
80年代後半から90年代前半、すなわちJリーグ草創期にかけて、読売と日産は激しく火花を散らした。両クラブが日本サッカー全体の底上げに果たした役割は計り知れない。近年の日本代表の躍進も、その文脈で捉え直す必要がある。
初出=週刊漫画ゴラク10月24日発売号
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