貧打の“セ界”制し サトテル3冠王へ【二宮清純 スポーツの嵐】

三冠王なら阪神ではバース以来

 いくら“投高打低”とはいえ、2割台の打率で首位打者はちょっと……。そんな空気が“セ界”を支配している。

 7月25日現在の、セ・リーグ打撃5傑は次の通り。

1位・岡林勇希(中日)2割9分3厘7毛8糸

2位・小園海斗(広島)2割9分3厘7毛6糸

3位・近本光司(阪神)2割9分2厘2毛

4位・中野拓夢(阪神)2割9分2厘1毛

5位・佐藤輝明(阪神)2割8分6厘

 かつて3割打者は一流の証と言われた。裏を返せば、3割打者不在は、今のセ・リーグに一流打者は存在しない、という逆証明になってしまう。

 7月に入る前、ネット裏からは「なぁに猛暑で投手がへばれば、3割打者も増えてきますよ」(セ・リーグ球団監督経験者)という声も聞かれたが、7月を迎えてからも、いっこうに快音は響いてこない。ひょっとすると、ひょっとするのではないか。

 そこで調べてみた。歴代のNPB首位打者で、打率ワーストは1962年の森永勝也(広島)の3割6厘7毛2糸だった。

 森永が広島勢として初めてセ・リーグ首位打者に輝いたこの年は、空前の“投高打低”で、規定打席に到達した選手の中で、打率を3割台に乗せたのは、彼ひとりだった。

 ちなみに2位は 近藤和彦(大洋)の2割9分3厘、3位は並木輝男(阪神)の2割9分。今年の2月に世を去った“牛若丸”と呼ばれた守備の名手・吉田義男(阪神)は、打率2割6分1厘ながら、打撃10傑入りを果たしている。

 話を今年のセ・リーグに戻そう。記録的貧打の理由のひとつとして考えられるのが、リーグを代表する強打者の不在である。22年に史上最年少の22歳で三冠王に輝いた村上宗隆(東京ヤクルト)は、脇腹痛で4月18日に登録を抹消されて以来、ずっと2軍での調整が続いている(執筆時:7月29日に103日ぶりに1軍復帰)。

 5月6日の阪神戦で左ヒジのじん帯を損傷した本塁打王3度、打点王2度の岡本和真(巨人)は、ケガをするまでは3割8厘と高打率をキープしていた。だが、まだ完全復活の目処は立っていない。

 そんな中、ひそかに注目を集め始めたのが、サトテルこと佐藤輝明(阪神)の三冠王獲得の可能性だ。目下、本塁打数(25)、打点(64)はリーグトップ。打率は2割8分6厘ながら5位につけている。

 阪神の選手で三冠王となれば、“史上最強の助っ人”と呼ばれたランディ・バース(85、86年)以来、39年ぶり2人目である。自らのバットでチームをリーグ優勝に導けば、MVPの最有力候補だ。

初出=週刊漫画ゴラク2025年8月8日発売号

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