柳田國男だけじゃない! 日本民俗学を創った学者たち【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

日本の民俗学 ② 多岐にわたる民俗学の領域

近代に日本民俗学を築いた人びと

日本では、1920年代以降、柳田國男が考える民俗学以外にも、多様なタイプの民俗学が形成されていきました。

柳田とともに、近代日本における民俗学の先駆者として知られるのが、博物学者、生物学者としても有名な南方熊楠です。柳田が、国内の民俗事象の比較研究に注力したのに対して、南方は、日本の民俗を単体で見るのではなく、西洋や東洋の文献と比較し、地球規模でその来歴や意味を解明しようとしました。

また、民俗学、国文学、芸能史などを横断的に研究し、「折口学」と呼ばれる独自の学問体系を確立したのが折口信夫です。柳田が「常民(定住民農民)」を重視したのに対し、折口は「漂泊民」や「芸能民」などの視点を強調しました。

さらに、渋沢栄一の孫であり、民俗学者としても知られる渋沢敬三も、実業の傍らで日本民俗学の発展に重要な役割を果たしました。渋沢は自らを「一実業人」と称しつつ、アチック・ミューゼアム(現・神奈川大学日本常民文化研究所)の創設や民具研究の確立などを通して、多角的な民俗研究を推進しました。

その後、戦後から現在にかけて民俗学はさらに多様な分野へ枝分かれし、学際的な広がりを見せています。

多岐にわたる日本民俗学の枠組み

①民間伝承研究

祭り、民間信仰、言い伝え、慣習など、民俗それ自体の歴史的変遷や起源、意味、機能などを探求しようとするタイプの民俗学。

②歴史学との合流

民間伝承を歴史学の資料として位置づけ、歴史学研究の中に組み込もうとした学派と、民俗学を一種の歴史学の方法論として位置づけようとした学派がある。

③伝承文学研究

折口信夫とその弟子筋らによる国文学研究の文脈で、口承文芸などの民間伝承を文学の発生論や系譜論、説話文学研究などと関わらせて扱う学派。

④宗教学との合流

仏教、神道、修験道などと民俗との関わりも含め、民俗を宗教の観点や宗教学の文脈の中で扱い、分析するタイプの民俗学。「宗教民俗学」の名称で呼ばれることが多い。

⑤民具研究

物質文化としての民具(日常生活で使われてきた道具)の研究を行う学派。民具そのものを調べるだけでなく、それを使っていた人びとの生活様式や社会構造の解明をめざす。

⑥民俗建築研究

民家の構造、機能、変遷、地理的変異、住まい方などを研究する。建築学者の今和次郎を嚆矢とする学派で、専門の学会として日本民俗建築学会が組織されている。

⑦民俗芸能・民俗芸術研究

折口信夫による芸能史研究にはじまり、戦前は「民俗芸術の会」、戦後は「民俗芸能学会」などを活動母体として、表現文化研究、パフォーマンス研究を展開する学派。

⑧音楽研究との合流

民謡や、儀礼・芸能などの中に現れる音楽を扱う。音楽学の研究者を担い手とし、採譜を伴うフィールドワークによる研究を行う。専門の学会として日本民俗音楽学会がある。

⑨国際口承文芸研究

世界各地の口承文芸を比較の観点から研究。各国文学の研究者が文学研究の延長線上で口承文芸を扱っている場合が多く、研究者間の国際ネットワークが発達している。

⑩地理学との合流

地図を活用しつつ、空間や景観、地理的分布や伝播といった観点から民俗を扱うタイプの民俗学。人文地理学を専門とする地理学者が主な担い手となる。

⑪人と自然の民俗学

人間と自然環境の関係のあり方に着目するもので、「環境民俗学」や「民俗自然誌」の名称で呼ばれることが多い。環境社会学や生態人類学との学際的なつながりも強い。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』監修:島村恭則

【監修者紹介】
島村恭則(しまむら・たかのり)
民俗学者。関西学院大学社会学部長・教授。1967(昭和42)年、東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。文学博士(筑波大学)。国立歴史民俗博物館教官、韓国・翰林大学校客員教授、東京大学客員教授などを歴任。日本各地で民俗学調査を行うとともに、韓国・中国での調査・研究も行う。
近年は、世界民俗学史をふまえた民俗学理論の研究、とくに民俗学を国際的・学際的な「ヴァナキュラー文化研究」として再編成する議論を展開している。
著書に『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?』(平凡社)、『民俗学を生きる ヴァナキュラー研究への道』(晃洋書房)、『これからの時代を生き抜くための民俗学入門』(辰巳出版)、『昔話の民俗学入門 民間伝承の秘密を読み解く』(創元社)、編著に『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(創元社)などがある。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』
監修:島村恭則


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現代の社会を知る上でも重要な学問ともいわれる「民俗学」。
そもそも「民俗学」とは「民」(=人々)について「俗」(=ヴァナキュラー)の視点で研究する学問であり、日本においては、春夏秋冬の年中行事や風習から、身近な衣食住の伝統や習慣など、都市や地方のあらゆる「文化・もの」について、歴史や謂われ、理由などが存在する。
本書では、現代にも繋がる礼儀やしきたりや祭祀、文化や風習、民間伝承、芸能、文化遺産から、昔話、怪談、(都市)伝説、B級グルメ、ネットミーム、パワースポット、七不思議伝と言われるものまで幅広く取り上げ、「現代民俗学」としてあらゆるジャンルについてわかりやすく紹介、解説する。

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