過去の知識で現代の問いを解消する 柳田國男が目指した現代科学としての民俗学とは【眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話】

「現代民俗学」の誕生 ① 過去と現在をつなぐ学問

柳田國男が目指した民俗学への回帰

1990年前後になると、それまで農山漁村に存在していた「民間伝承」が近代化によって大きく変貌したり消滅したりする状況に直面し、新たな民俗学のあり方を探る研究者が現れるようになりました。

たとえば、民俗学者の岩本通弥氏は、柳田國男の民俗学思想の再検討を行ったうえで、「社会現実の実生活に横たわる疑問」を解決し、それによって「人間生活の未来を幸福に導く」ことが、柳田が考えた民俗学であり、それが扱う「過去の知識」としての「民俗」は、あくまでもそのための材料であったにもかかわらず、その後の民俗学が、こうした問題意識を忘却し、「民俗」そのものの研究へと転じていったことを批判し、「民俗」を用いて現在に継起する諸問題を研究する学問への転換の必要性を論じています。

こうした考えは、柳田國男が目指した「現代科学」としての民俗学への発展的な回帰といえるでしょう。

また、この「回帰」以降、民俗学では、市場経済、消費、産業、労働、科学技術、農業政策、戦争、暴力、災害、権力、生活革命、生命、医療、記憶、環境、文化遺産、観光、インターネット、多文化主義、移民、ナショナリズムなど、さまざまな主題領域での研究が生み出されるようになりました。

「過去との照合」で現代の問いを解く

民俗学は、普遍的な理論の安易な当てはめなどと違い、私たちが営んできた実際の暮らしの歴史の積み重ねの中に、現在の問いを解く糸口を探っていく学問である。

「現在」は、「今日までの経過(過去)」の堆積の上に成り立っている。

「過去」と「現在」の照合によって、現在の成り立ちを考える。

現在を「史学」することで、現在に対する解像度を上げることができる。

※参考文献:及川祥平「自己・世相・日常――現在を史学する視点」『現代思想』第52巻6号

「現代科学」としての民俗学

柳田國男は、「現代科学ということ」という論文で、私たちがこれからの時代をどのように生きていけばよいのかを考える際、「実際生活」の内省から出発し、「今日までの経過、否今なお続けている生活様式を、知りかつ批判しまた反省」する科学としての民俗学を、「現代科学」としての民俗学と呼んだ。また、「国史と民俗学」において、自分が今生きている「現在」が、どのような過程を経て生まれたものなのか、歴史と照らし合わせながら内省することを「史心」と名付けている。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』監修:島村恭則

【監修者紹介】
島村恭則(しまむら・たかのり)
民俗学者。関西学院大学社会学部長・教授。1967(昭和42)年、東京都生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科単位取得退学。文学博士(筑波大学)。国立歴史民俗博物館教官、韓国・翰林大学校客員教授、東京大学客員教授などを歴任。日本各地で民俗学調査を行うとともに、韓国・中国での調査・研究も行う。
近年は、世界民俗学史をふまえた民俗学理論の研究、とくに民俗学を国際的・学際的な「ヴァナキュラー文化研究」として再編成する議論を展開している。
著書に『みんなの民俗学 ヴァナキュラーってなんだ?』(平凡社)、『民俗学を生きる ヴァナキュラー研究への道』(晃洋書房)、『これからの時代を生き抜くための民俗学入門』(辰巳出版)、『昔話の民俗学入門 民間伝承の秘密を読み解く』(創元社)、編著に『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』(創元社)などがある。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 民俗学の話』
監修:島村恭則


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現代の社会を知る上でも重要な学問ともいわれる「民俗学」。
そもそも「民俗学」とは「民」(=人々)について「俗」(=ヴァナキュラー)の視点で研究する学問であり、日本においては、春夏秋冬の年中行事や風習から、身近な衣食住の伝統や習慣など、都市や地方のあらゆる「文化・もの」について、歴史や謂われ、理由などが存在する。
本書では、現代にも繋がる礼儀やしきたりや祭祀、文化や風習、民間伝承、芸能、文化遺産から、昔話、怪談、(都市)伝説、B級グルメ、ネットミーム、パワースポット、七不思議伝と言われるものまで幅広く取り上げ、「現代民俗学」としてあらゆるジャンルについてわかりやすく紹介、解説する。

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