【縄文のミステリー】なぜ土偶は「奇怪な姿」なのか?国宝の女神たちに込められた命がけの願い【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

縄文人たちが願いを籠めた奇怪な美!
「元始、女性は太陽であった」── 土偶の女神たち
大正時代(1912〜26年)のこと、女性解放運動の先駆者、平塚らいてう(1886〜1971年)が「元始、女性は太陽であった。真正の人であった。今、女性は月である」と叫んで雑誌『青鞜』(1911〜16年、52冊発行)を創刊。一世を風靡した。元始とは縄文時代のことだ。
縄文時代は母系性社会だった。部族全体を統率するのは男子の長老であるが、長老と並んで年配の女(婆)が大きな役割を担った。集落を形づくり、定着して生活するようになっても部族間の集団婚が基本で、生まれた子どもは誰の子どもではなく、部族の子どもであった。
1対1の男女が夫婦となり、男子が財産を管理して単婚家族を構成し、国家が成立するようになったのは弥生時代になってからのこと。らいてうは縄文時代の記憶を思い出して叫んだのか。彼女の遺伝子情報が突然、作動したのかもしれない。
実際、縄文中期以後、「縄文のビーナス」(長野県茅野市棚畑遺跡/国宝)という妊娠中の女性の体形を強調した土偶とか、女性器を中心に下半身を誇張した「仮面の女神」(茅野市中ツ原遺跡/国宝)とか、出産前後のポーズとされる「合掌土偶」(青森県八戸市風張1遺跡/国宝)、健康な肉体を表現した「中空土偶」(函館市著保内野遺跡/国宝)、スタイリッシュな女性の立ち姿を造形した「縄文の女神」(山形県最上郡西ノ前遺跡/国宝)が出土しているが、いずれ劣らぬ女性本来の生命力、神秘的な力を表現している。
縄文人は妊娠と出産という女性の生命活動に一喜一憂しながら、同時に部族全体の無事、発展と繁栄を願い、女性偶像の完形品を神前に奉納して豊穣の儀礼を行ったのである。
縄文のビーナス・仮面の女神
<縄文のビーナス>
腹部と尻が誇張された下半身のどっしりとした安定感がある妊婦の姿。目が吊り上がっているのは当時の顔立ちか。また、粘土には雲母片が混ぜられ、表面が輝く特徴がある。

<仮面の女神>
逆三角形の顔と異常に太い両脚が特徴。顔には眉毛、目、鼻、口を表す穴が開けられていることで仮面と見られる。胴体には非対称の渦巻き模様が施され、内部は空洞の中空土偶。この土偶にも粘土に雲母片が塗り込まれている。

【縄文ビーナス:平成7年(1995年)/仮面の女神:平成26年(2014年)に国宝指定】
両土偶とも長野県茅野市尖石縄文考古館所蔵
茅野市棚畑遺跡から出土した「縄文のビーナス」は、縄文時代中期(約5500 年前から約4400 年前)の土偶と見られ、高さ27cm・重さ2.14kg。また、茅野市中ツ原遺跡から出土した「仮面の女神」は縄文時代後期前半(約4000 年前)の土偶と見られる。高さ34cm・重さ2.7kg。すごいのはどちらの土偶も壊されずほぼ完全体で出土したこと。
合掌土偶
腰を下ろして膝を立て、胸前で両手を合わせ合掌している姿。なんらかの祈りや出産時の様子などと見られている。全身に赤い顔料を塗った跡があり、当時の風俗を知るうえでの貴重な資料。また、左脚付け根などの壊れた部分にアスファルトが付着していたことから修復したことが見て取れる。

【合掌土偶】
平成21年(2009年)に国宝指定/青森県八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館所蔵
縄文時代後期後半(約3500年前〜3000年前)に八戸市風かざ張はり遺跡から出土した土偶。出土土偶70点のうち唯一の完全体。座った形で合掌するスタイルは他に見られない。高さ9.8cm・幅14.2cm。
国宝指定のない不思議な遮光器土偶
異常に大きい目とは逆に目鼻立ちは小さい。手脚は短いが、腰はくびれている。内部が中空になっているのは焼成時のひび割れを防ぐための工夫。王冠のような突起や首飾り、全身に施された雲形文様は、当時の服装を表しているとされる貴重な資料。また、全身に赤の顔料が残っているところから完成時には赤い土偶だったと考えられる。

なお、片足が取れた亀ヶ岡出土の遮光器土偶は超有名な縄文晩期の土偶だが、なぜか国宝に指定されず重要文化財にとどまっている。どういう状態で発掘されたか、わからないためらしい。不思議である……。まさに異端の土偶というべきだろう。
【青森県つがる市木造亀ヶ岡出土 遮光器土偶】
昭和32年(1957年)に重要文化財指定/東京国立博物館保管
特異な目の部分は誇張表現と考えられるが、「遮光器」の名称は雪目を防ぐためにイヌイットが伝統的に着用するスノーゴーグル(遮光器)の形に類似しているために付けられた。遮光器土偶は東北地方北部に多い。亀ヶ岡出土の遮光器土偶は縄文時代晩期(約2000 年前〜1400 年前)の作。高さ34.2cm・幅25.3cm・厚さ9.5cm・重さ1.440kg。
縄文の女神

左右が下に垂れた頭頂部は「河童形」と呼ぶが、帽子か髪型ではないかとの見方もある。顔の表情を消し、両腕も省略しているが、W字型に乳房を張り出させ、腹部を突起させた姿は妊婦を思わせる。尻を突き出したスタイルは「出尻形」だ。全体として八頭身で、その姿はスマートで美しい。また、両脚を裾広がりにして立脚を安定させている。両脚の底をえぐり取った跡があるが、これは生焼けを防ぐ工夫とされる。この土偶も粘土に雲母片が混ぜられている。
【縄文の女神】
平成24年(2012年)に国宝指定/山形県立博物館所蔵
山形県最上郡舟形町西ノ前遺跡出土の「縄文の女神」は縄文時代中期(約4500年前)の土偶だが、形像が完全な姿で現れた貴重な土偶。現存する立像土偶で最大高を誇り、縄文時代土偶造形の到達点と評価されている。高さ45cm・重さ3.155kg。
中空土偶

両腕が消失し不明となっている。両脚には左右対称の幾何学模様。脚先は丸いために立脚不可能。祭祀や呪術用の土偶との解釈がある。
【中空土偶】
平成19年(2007年)に国宝指定/函館市縄文文化交流センター所蔵
中が空洞になっていることで「中空土偶」と名付けられた縄文時代後期後半(約3500 年前)の土偶。主に東北地方に見られる土偶だが、函館市著保内野遺跡で出土の中空土偶は現存では最大高で特に有名。高さ41.5cm・幅20.1cm・重さ1.745kg。

にゃん太:縄文人ってすごく面白い土偶をつくるんだね!
わん爺:うむ、芸術性にすぐれていたのかもしれんのう。それにしても発掘された土偶は現代人では思いつかない形状だな。顔や体のデフォルメは想像を超えている。しかし、そうした感覚の基底にあるのは、出産への期待と怖れなのだな。子どもが産まれないと一族は衰退するし、時には消滅するかもしれん。分娩は命がけだし、たいへんな労力を伴う。だから、土偶に頑丈で豊かな下半身を与えて無事を祈ったのだろう。
にゃん太:でも、縄文の土偶ってよく壊れて出てくるというよね?
わん爺:そうだのう。いろんな説があるらしいが、まず「人ひと形がた」として、自分たちの災厄の身代わりにする説。土偶を壊して土に埋めることで、「死と再生」を願ったのではないか。これは豊作と子孫繁栄を意味したという説。それと呪術や祭祀で使われたあとに、土偶の力を封じるために破壊されたとする説。いずれにしろ、土偶に込めた思いは現代人には計り知れないものであろうなぁ。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』著:鈴木 旭
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』
著:鈴木 旭
国宝は「重要文化財のうち世界文化の見地からも価値の高いもの、類いない国民の宝」と定義され、現在1144件(2025年)が認定されている。
普賢菩薩像から伊藤若冲までの「絵画」、弥勒菩薩半跏思惟像など「彫刻」、日本刀などの「工芸品」、銅鐸・金印・古墳出土品などの「考古資料」、中尊寺金色堂など「建造物」、「書跡・典籍」、「古文書」、「歴史資料」の8分野がある。
本書では、歴史的背景や、史実にもとづきながら、見所、詳細な情報を掲げ、丁寧に解説。
知っておきたい、興味深い国宝を中心に、写真ではわからない驚きや不思議・謎に踏み込んで紹介する。
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