同じ運慶作の国宝!願成就院と金剛峯寺、二つの国宝制吒迦童子に見る“表現の幅”【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

憤怒の形相の不動明王にも負けない気の強さ?

矜羯羅童子と務める天衣無縫の脇侍 ── 制吒迦童子

 制吒迦童子(せいたかどうじ)は、矜羯羅童子(こんがらどうじ)とともに不動明王の眷属で脇侍を務める。通常は不動明王の右脇侍を務めるのが役目である。

 願成就院でも本尊阿弥陀如来坐像を中心にして左に毘沙門天が立ち、右に不動明王が立つ。そして作法通り、右脇侍として制吒迦童子が立ち、矜羯羅童子が左脇侍として立っている。いずれも運慶が30代半ばにつくり上げた仏像で、若々しい肉体、力感溢れる造像となっている。

 中でも左脇侍の矜羯羅童子があどけなく、愛らしい童子に仕立てられているのに比して、制吒迦童子は宝棒を持ち、眉間に皺を寄せ、口をへの字に結び、いまにも飛び掛からんとしているのが特徴。眼光鋭く憤怒の形相の不動明王を助け、悪に立ち向かう姿に見える。

 ところで、「制吒迦」とはサンスクリット語のチェータカを音写したもの。「制多迦」「制託迦」とも書き、八大童子の第8番目となる。15、16歳ほどの童子で、ふつうは頭に「五智如来」にいう五智を意味する5つの髻を結び、肌が燃えるような紅蓮色。袈裟は身に着けず、天衣無縫。無造作に衣(天衣)を頸と肩に巻き付ける。瞋心悪性で、獣性的な激しさを備えているという。

 願成就院蔵の制吒迦童子像と並んで、金剛峯寺(和歌山県高野山)所蔵の「制吒迦童子像」(国宝)が有名。こちらも運慶作と伝えられるが、外見上、願成就院蔵と異なって、自然な立ち姿をしており、力強い肉体は強調されているものの、表情の険しさはそれほどではない。造り手は同じ運慶だが、納める寺によってつくり分けられたのかもしれない。ケース・バイ・ケースか。

不動明王立像=密教の教えの中心的な尊格。大日如来の化身。憤怒の相で右手に悪と煩悶を断ち切る剣、左手に衆生を救い上げる羂索を持ち、背後に炎を背負う。


制吒迦童子像

金剛峯寺制吒迦童子像

昭和30年(1955年)に国宝指定 / 運慶&運慶一門作 / 和歌山県高野山金剛峯寺所蔵

制吒迦童子像は八大童子のうちの1つ。「八大童子」とは、制吒迦、矜羯羅のほか恵光、恵喜、烏俱婆伽、清浄比丘、阿耨達、指徳の6童子を指す。金剛峯寺の八大童子は木造彩色ですべて国宝(阿耨達童子と指徳童子は附属として国宝)だが、阿耨達童子と指徳童子は造仏時のものが失われたため、鎌倉時代後期から南北朝時代に新たに補仏されたとされる。そのためか作風が異なるという。制吒迦童子と矜羯羅童子は運慶作だが、残りの4童子は運慶工房の仏師たちの造像と考えられている。制吒迦童子像高148.2cm。

<制吒迦童子>
金剛峯寺の制吒迦童子は願成就院像とはまったく異なり、憤怒の形相とはほど遠い。闘志を内に秘めた姿であろうか。


にゃん太:金剛峯寺の制吒迦童子って、いつできたの?
わん爺:寺伝によれば建久9年(1198年)だというぞ。
にゃん太:でも、金剛峯寺のはそれほどでもないけど、願成就院のはすごく怖い顔をしてるよね。
わん爺:うむ、実はあの表情は、不動明王がなぜ恐ろしい顔をしなければならないのか、その根底の慈悲の心を知らない人々に対して、自らの憤怒の形相で悟らせたいのかもしれん。何せ不動明王は大日如来の化身だし、制吒迦童子は不動明王の脇侍だからのう。


【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』著:鈴木 旭

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』
著:鈴木 旭


【Amazonで購入する】

国宝は「重要文化財のうち世界文化の見地からも価値の高いもの、類いない国民の宝」と定義され、現在1144件(2025年)が認定されている。
普賢菩薩像から伊藤若冲までの「絵画」、弥勒菩薩半跏思惟像など「彫刻」、日本刀などの「工芸品」、銅鐸・金印・古墳出土品などの「考古資料」、中尊寺金色堂など「建造物」、「書跡・典籍」、「古文書」、「歴史資料」の8分野がある。
本書では、歴史的背景や、史実にもとづきながら、見所、詳細な情報を掲げ、丁寧に解説。
知っておきたい、興味深い国宝を中心に、写真ではわからない驚きや不思議・謎に踏み込んで紹介する。

この記事のCategory

オススメ記事

【法隆寺の闇】聖徳太子の怨霊封じか? 国宝「釈迦三尊像」の急所に打ち込まれた謎の釘【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

屋根がない不思議な絵「吹抜け屋台」で描かれた恋愛模様、国宝「源氏物語絵巻」を図解!【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

斜め向きの視線と強い隈取りに注目!『絹本着色十一面観音像図』11の顔に込められた救済のメッセージとは【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

最澄と空海の交流を知る唯一の史料 、「久隔帖」と「風信帖」に込められた想いとは【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

「内臓」入りの仏像!? 1000年前の”五臓六腑”が明かす「生身のお釈迦様」の正体【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

【縄文のミステリー】なぜ土偶は「奇怪な姿」なのか?国宝の女神たちに込められた命がけの願い【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

「国宝の密度が日本一」!? 豪華絢爛中も外も国宝だらけ『平等院鳳凰堂』の歴史【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

何故か墓から出てこない、誰も用途を知らない謎の遺物とは?【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

求人情報

インフォテキストが入ります