ベストアマ当時は80キロだった松山英樹
この4月、日本人、いやアジア人として初めてマスターズを制した松山英樹の実家(愛媛県松山市)の前は瀬戸内海に面した砂浜である。
「昨年末に帰省した際、ずっと砂浜を走っていた。2021年に期するものがあるんだろうと思っていましたよ」(地元のゴルフ関係者)
松山が初めて出場したマスターズでベストアマに輝いたのは、まだ19歳の時である。手元に写真があるが、体はまだヒョロッとしている。当時の体重は80キロだ。
その10年後、マスターズを制した松山の体躯は外国人並みだ。腰回りが安定し、体重は90キロまで増量した。
四国・愛媛生まれの松山は高知の明徳義塾高校を卒業すると東北福祉大のゴルフ部に進んだ。
ここで監督の阿部靖彦と出会う。これがよかった。
以前、阿部はこう語った。
「ウチは12月、1月、2月は一切ラウンドさせないんです。この時期は体を休め、次の年に備える準備にあてるんです。
具体的には1時間はランニングだけ。クラブは一切、握らせない。夜は夜で2時間、みっちりと室内練習場でのトレーニング。
そりゃ沖縄や九州の人は、年がら年中、ラウンドできるかもしれない。でも、僕はそれが羨ましいとは思わない。」
4年間、みっちりと下半身を鍛え込んだことがマスターズ制覇につながったのだ。
阿部は続けた。
「下半身は大切です。スタミナは重要です。今のゴルフは道具もボールもいいから、よく飛びます。でもプロは4日間、戦い抜かなければ意味がない。だから私は、彼にこう言ったんです。“世界で勝とうと思うんだったら、まずは最終日までの4日間、しっかり戦う体づくりをしような”って……」
ゴルフで最も大事なのは最終日の最終9ホール、サンデーバックナインである。
6月には笹生優花が史上最年少の「19歳351日」で全米女子オープンを制した。
前回も書いたが、男子顔負けのスイングは強靭な下半身の賜物だ。
笹生をアマチュアの頃から取材している記者によると、両足に250グラムのおもりをつけてスクワットや打ち込みをし、フィリピンから帰国してからは、神社の50段の石段を、足と胴におもりをつけたまま、毎日、昇り降りしていたという。
「ローマは一日にして成らず」とは、よく言ったものだ。
下半身を制する者は世界を制す――。これはゴルフに限った話ではない。
初出=週刊漫画ゴラク2021年7月2日発売号