オルティス殿堂入りの一方で
アメリカ野球殿堂博物館はニューヨーク州クーパーズタウンにある。殿堂入りを果たせばギャラリーにレリーフが飾られる。
殿堂入りの選考対象は、メジャーリーグ(MLB)で10年以上プレーし、引退後、5年以上が経過した者。全米野球記者協会在籍10年以上の記者による投票で決定される。規定得票率75%以上が選出条件だ。
今回、77.9%の支持を得て殿堂入りを果たした通算541本塁打のデービッド・オルティスは
「本当に名誉なこと。全てのサポートに感謝する」と語った。
明がオルティスなら暗がバリー・ボンズとロジャー・クレメンスだ。ボンズは66.0%、クレメンスは65.2%で落選した。
ボンズはMLB史上最多の762本塁打、2001年にはシーズン最多の73本塁打を記録している。全盛期は走攻守三拍子揃った選手で、史上唯一の「500本塁打&500盗塁」も達成している。
もうひとりのクレメンスはMLB史上7位の354勝をあげている。通算7度のサイ・ヤング賞受賞は史上最多だ。
ともに候補資格は今年が最終年の10年目。ボンズもクレメンスもオルティスの殿堂入りを祝福したが、実際のところ、複雑な心境だったに違いない。
というのも、実績だけで判断すれば2人とも、とうに殿堂入りを果たしていてもおかしくないからだ。
2人の殿堂入りを阻んだのはステロイド(筋肉増強剤)などの薬物使用疑惑である。かつて通算775本塁打のハンク・アーロンは「野球殿堂に卑怯者の居場所はない」と語っていた。
ドーピングがMLBの歴史に汚点を残したことは事実である。選手の健康面にも多大なる悪影響を与えた。
しかし、MLBがドーピングに対する罰則規定を設けたのは04年になってからだ。それ以前の成績まで不正と見なすのはフェアとは言い難い。
例えて言えば、路上喫煙を禁止している自治体がある。見つかれば罰金だ。しかし、この条例は3年前に施行されたものだったとする。それを監視カメラに証拠が残っているという理由で、5年前にまで遡って「反則金をとる」と言っているようなものだ。いくら路上喫煙が“社会悪”だとはいっても、それはちょっとやり過ぎだろう。
先の2人に話を戻せば、ベテランズ委員会による選出という“救済策”が、まだ残されている。さて、どうなるか。
(初出=週刊漫画ゴラク2022年2月10日発売号)