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無敵の井上尚弥「最強論」の主役【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

日本人ボクサーとして初めての「PFP最強」

 ボクシングにおいて、「パウンド・フォー・パウンド(PFP)最強」なる概念をつくったのは、米国のボクシング専門誌「ザ・リング」の初代編集長ナット・フライシャーである。

 あらゆる階級を通じて、一番強いボクサーは誰か。これはウェルター級とミドル級でケタ外れの強さを誇ったシュガー・レイ・ロビンソンの功績を称えるためのものだったと言われている。

 日本人ボクサーとして初めて「PFP最強」に選ばれたのは、現WBC・WBOスーパーバンタム級統一王者の井上尚弥だ。

 2022年6月、WBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者だった井上が、WBC同級王者のノニト・ドネア(フィリピン)を返り討ちにし、日本人初の3団体王座統一に成功したことに加え、その内容が評価された。

 その年の12月には、WBO世界バンタム級王者のポール・バトラー(英国)と世界バンタム級の4団体王座統一戦を行い、逃げ回るバトラーを11回にフィニッシュした。

 もうバンタム級でやるべきことはない、とばかりに階級をひとつあげた井上は、さる7月25日、スーパーバンタム級のデビュー戦で、WBC&WBO2団体統一王者のスティーブン・フルトン(米国)を8回に仕留め、2つのベルトを手にすると同時に、日本人2人目の4階級制覇を達成した。

 序盤、ジャブの差し合いで優位に立った井上は8回、左ボディーブローからの右ストレートでダウン経験のないフルトンをぐらつかせ、左フックでキャンバスに這わせた。再開後、連打でとどめを刺した。

 井上は取材者泣かせでもある。スポニチのベテランカメラマン長久保豊の次のコラムにシンパシーを覚えた。

<速い、見えない、予測がつかないモンスターの前では長い経験など意味はない。ラウンドを追うごとに追い詰められ弱気になっていくのは対戦者と同じだ>(同紙8月4日付け)

 しかし、リング誌の最新(8月1日)のPFPランキング1位、すなわち最強は、7月30日(日本時間)、WBAスーパー・WBC・IBF統一王者のエロール・スペンス・ジュニア(米国)に9回TKO勝ちを収め、ウェルター級4団体統一王者となったテレンス・クロフォード(米国)。スーパーライト級に続き、2階級で4団体を統一した。

 PFPランキングは、株価のように試合ごとに上がったり下がったりする。井上の1位返り咲きが楽しみだ。

初出=週刊漫画ゴラク2023年8月26日発売号

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