生命が生存するには過酷すぎる環境
地球と月とは、引力という力でお互いに引き合っています。この引力と、引き合いながら回るときに生じる遠心力が海の干潮と満潮を引き起こします。これを潮ちょう汐力(潮汐作用)といいます。惑星と衛星がお互いにこれほど作用し合うのは、太陽系では地球と月だけと考えられています。
そんな月がなかったら、海の満潮、干潮はもちろんのこと、地球はいまのような「命の惑星」ではなかった可能性があります。たとえば、月の潮汐力は地球の自転スピードを遅くする作用をしています。もし月がなかったら、地球は1日8時間という猛烈なスピードで回転していたと考えられます。そうであれば地表も海も大荒れの状態で、もし生命が誕生できたとしても、現在の人類のような進化は望めなかったでしょう。
また、地球の自転軸の傾きを一定に保ってくれているのも月の引力です。地球は自転軸が約23.4度傾いた状態で太陽の周りを1年かけて公転しています。月がなければ、自転軸がわずか1度ずれただけでも、その傾きは予測不能な変動を起こしてしまいます。もし月がなかったら、地球の自転軸は不規則に変化し、大規模な気候変動が起こっていたはず。このように唯一の衛星である月こそが、地球に生命の誕生をもたらしたと考えられるのです。
人類にとって月はいちばん身近な天体です。月の満ち欠けから暦が生まれ、月を舞台に物語が語られてきました。そしてついにアポロ計画によってはじめて人類が月に立ったことで、月は物語の舞台からリアルな存在になったのです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 宇宙の話』 著:渡部潤一
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 宇宙の話』
監修:渡部潤一
「地球はどうやってできたの? 宇宙のどこにあるの? 」「太陽が巨大化するってホント?」「月のクレーターや『月の海』って?」「 宇宙はどんな構造?いくつもあるの? 」など素朴なギモンに即答で宇宙のナゾに迫る! ——地球の生い立ちから、お隣の天体・月の謎、太陽と惑星の素顔、恒星と銀河、宇宙論まで、最新の天文学、宇宙物理学、惑星科学に踏まえてやさしく解説。豊富なイラスト、61テーマと興味深い宇宙・星座コラムで、夢とロマンに満ちた、いちばん新しい宇宙の姿がよくわかります。太陽系のナゾから最新の宇宙理論まで、宇宙のフシギをズバリ解明します!
公開日:2024.02.11