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ドラフト注目選手 小園健太投手(市立和歌山高校)インタビュー

Text:沢井 史

センバツは野球人生で
一番緊張しました

――初めての甲子園となった今春のセンバツは、今までにない硬い表情で投げる小園投手の姿が目につきました。かなりの緊張があったのではないでしょうか。

小園 センバツは今までに野球をやってきた中で一番緊張しました。(第1試合だった)初戦の試合前、ベンチに道具を置きに誰もいない甲子園の球場内に入ったんですけれど、その時の球場の雰囲気に圧倒されてしまいました。そこから気持ちがフワフワしたまま試合前のキャッチボールをして、ピッチング練習に入っていって……。

――前夜から眠れないくらい緊張していたとか?

小園 いえ、夜はぐっすり眠れたんです。でも実際に球場を目の当たりにすると、違いましたね。甲子園練習や開会式で事前に甲子園を感じずにいきなり本番が試合だったので。試合当日に甲子園に着いて初めて、気持ちが高ぶりました。室内練習場にいる時は緊張をほぐすために柔軟(ストレッチ)をやったりして動き回っていました。ブルペンでも“大丈夫かな?”というボールもあったんですけれど、試合は待ってくれないので、そういう状態のまま始まってしまって。試合開始の後の7球の投球練習後にマウンドで深呼吸をしてから投げたんですけど、足が結構震えていました。

――初戦の県岐阜商戦では完封するも6四球。立ち上がりから自身の感覚を掴むのは難しかったようですね。

小園 そうですね。足が震えるなんて、今までは経験したことがなかったので……(苦笑)。マウンドで深呼吸をしたのも初めてです。それでもなかなかほぐれませんでしたが、3回に1死二、三塁のピンチで連続三振を取ったあたりから、雰囲気に少し慣れたような気がします。

――そこから自分のペースを掴めるようになってきましたか?

小園 それまではストレートが抜けたり、コースに決めきれなかったのですが、3回でようやく決まってきたかな、という感じです。ただ、それ以降に良くなったというのはないですね。最後まで自分のピッチングができませんでした。

――これまで甲子園のかかった大会でも緊張はしたことはなかったのですか?

小園 なかったですね。昨秋の近畿大会でも緊張は全くなかったです。あそこまで緊張したのは、自分でもビックリしています。

――やはり甲子園は独特の雰囲気だったということでしょうか。

小園 それまでテレビの向こうだった甲子園に立ってみて、自分たちのワンプレーでスタンドが湧く雰囲気や、周りの声が予想以上に聞こえてきて……。今回のセンバツはいつもよりはお客さんは少なめだったとは思うんですけれど、それでも相手の応援も自然と耳に入ってくるんです。意識していないつもりでも気づけば意識してしまったというか……。去年の秋は無観客だったので、自分のペースを掴みやすかったですが、そのあたりは難しかったです。

――2回戦の明豊戦は5回からの登板でした。どのように試合を作っていこうと考えていたのですか?

小園 試合前から5回から行くぞと言われていたので、5回に合わせて気持ちは作っていたつもりだったんですけれど、いざマウンドに上がると守りに入ってしまったというか、ストライクを先行させられなかったのが悔やまれます。

――同点になった直後の7回表に適時打を許し、悔しい敗戦となりました。当初はどういう攻めで明豊打線を抑えようと考えていたのですか?

小園 明豊戦は1回戦よりもスライダーを多投していたのですが、実際はそのスライダーを狙われました。後で映像を見ると(明豊の打者が)スライダーにしっかりタイミングを合わせていたんです。(バッテリーを組む松川)虎生とカットボールを多めにした方が良かったと話したのですが、その辺りを考えても、もっとしっかり組み立てていけば良かったと思いました。

――日本一を目指した大会での2回戦敗退。最も悔やまれた部分って?

小園 明豊戦に関しては、1試合を投げ切った後の試合で、初戦に比べれば緊張する場面も少なくて、もっと楽しんで投げられたら良かったです。この1点を取られたらいけないというプレッシャーが強くて、どうしてもそちらに神経を使ってしまって、余裕を持って投げられなかったのが悔しいです。

周囲からの大きな注目が
プレッシャーになった部分も

――高校野球関連雑誌で表紙を飾るなど、大会前からの注目度も高い中でのマウンドでもありました。

小園 センバツの出場が決まってからもテレビなどでもたくさん取材を受けて、電車に乗っている時に知らない人にも声を掛けられることが増えました。それはすごくありがたいことなのですが、大会前になると、みっともない姿を見せられないという気持ちが強くなって、正直に言うと、少しプレッシャーになるところはありました。でも、それは言い訳にはならないです。

――全国レベルのチームと対戦して最も痛感したことは?

小園 センバツを終えて感じたのは、そのバッター、そのバッターで気を緩めないこと。一言で言うと力配分の大事さです。力の出し入れも大事ですが、ショートイニングであっても、そのバッターにベストを尽くす大事さをあらためて感じました。そこは夏の県大会でも生かしていきたいです。

――ストレートに対するこだわりに関しては?

小園 センバツではストレートには物足りなさを感じました。これから夏に向けて(スピードの)アベレージを上げていかないといけないのと、球質にももっとこだわっていかないといけないと思いました。

――春の県大会は全5試合でリリーフ登板し、決勝の智辯和歌山戦では1対2で迎えた6回から登板しました。昨秋は3勝したライバルを相手に、秋までにはなかった雰囲気を感じたことはありましたか?

小園 昨秋は8月の終わりの新人戦から毎週末に試合があって、相手の研究や対策をする時間があまりなかったので、(市和歌山が3連勝したことは)どうとは思っていません。でも、昨秋は振ってくれていた変化球を、この春の智辯和歌山の各打者は打席の少し前にしっかり立って、曲がる前に叩くことを徹底しているように思えました。変化球に対しても対応力が高いのはさすがだなと思いました。

――6回は無失点に抑えましたが、7回には1点、8回には3連打などで4失点を喫しました。

小園 自分としては1球1球に神経を使って投げていたつもりでしたが、ここという1球が甘いコースにいってしまいました。他のチームでは甘いコースでも空振りを取れるのですが、智辯和歌山はそうはいきません。ストレートと変化球を投げる時の腕の振りにはっきりと違いがあったのかもしれません。自分のピッチングがアバウトになったのもありました。

――8回の先頭打者だった智辯和歌山の4番・徳丸天晴選手に151キロのストレートを左越え二塁打にされ、そこから失点が重なりました。

小園 あの時は1球目に外にいいボールが決まって(151キロのストレート)、2球目にまた同じコースに決めようとしたけれど、少し内に入ってしまったところを打たれました。相手は速いマシンを打ち込んで目慣れしていたのもあるかもしれませんが、そこが自分のツメの甘さだと思いました。あの場面で相手ベンチから“2球目!”という掛け声があったのですが、自分が1球目を決められた後に決めきれないという課題を向こうはしっかり見抜いていたんだと思います。

――決勝戦は4回を投げて7安打5失点。これだけ打たれたことは久しぶりだったと思いますが、この場面が一番悔やまれる、という場面って?

小園 どの場面も悔しかったですね。ストレート自体のコントロールは決勝戦に限らず春の大会でだいたいは出来ていたと思うんですけれど、変化球の細かいコントロールが課題として出たので、そこは夏に向けて修正しないといけないです。

――春の大会が終わってからは、どんな練習をしてきたのですか?

小園 週に4度はブルペンに入って、1球が決まった後に同じコースに投げる練習をやっています。あとは、この春に関しては相手の意表を突く投げ分け方というか、向こうがこう読んでいるであろうという中で、セオリーのリードではない組み立て方…例えばこの場面なら絶対ここのコースという時に、左の外にスライダーを投げるだとか、そういう投げ方をもっと増やすことも大事だと思いました。

――春の大会で森木大智投手(高知)や風間球打投手(明桜)が好投したニュースが出ていましたが、他校のライバルの情報はチェックする方ですか

小園 同世代にそういったすごい投手がいるのはすごく刺激になりますし、そういうニュースは意識して見てしまいます。風間君からは“尊敬しています”とか言われるのですが、風間君の方が自分りすごいのになって思ってしまいますね。

グローブに刺繍した“エースたるもの”の意味

――県内では智辯和歌山のエース・中西聖輝投手がいますが、県の決勝で投げ合い自己最速( 147キロ)をマークするなど、小園君に食らいついてくる姿が印象的でした。そんな中西投手の姿は小園君の目にはどう映りましたか?

小園 中西君は1球に対する気持ちの込め方がすごいというか、ボール球でも手を出してしまうくらいの気迫を感じたので、自分も見習わなければいけないと思いました。

――6月5日には高野山との練習試合でセンバツ後初先発し、7回を1安打10奪三振無失点。この試合で見えた手応えはありましたか?

小園 まだまだコントロールは上げていかないといけない部分はありますが、浮く球は減ってきましたし、要所でしっかり低めにコントロールができていました。狙ってゴロアウトも取ることもできたので、その辺りは成長できているのかなと思います。

――高野山には渡邉大和選手という県内で評判の強打者がいますが、その渡邉選手から3奪三振。力が入ったというコメントもありました。

小園 (渡邉選手は)打線の中で一番核となるバッターで、彼を抑えれば相手の勢いを止められるので、そこは力を入れて投げました。県大会はリリーフで投げて一人一人の打者に全力で投げていましたが、久しぶりに先発して打者に対する向き合い方や力の入れ方が違うと感じたので、その辺りはリリーフを経験したからこそ、つなげられる部分もあると思いました。

――7回という比較的長いイニングを投げて、夏に近い気候の中で確認できた部分もあったのではないでしょうか。

小園 その日は暑くて結構ジメジメしていて、夏の大会の時と似た雰囲気だったんです。でもスタミナ面は問題なかったですし、7回を投げて疲れも感じませんでした。センバツ前の投げ込みでは、ピッチングで少し流してしまう部分もあったんですけれど、最近は普段のピッチングから1球に意味を持って投げるようにしました。それが試合に出てきているのかもしれません。

――半田真一監督は、小園君はセンバツでは本当の実力を発揮できていないと話していました。プレッシャーがあっても、すごい投手はそういう壁を乗り越えて、さらに成長していくんだとも。センバツは小園君に色んな教訓を与えてくれた大会だったかもしれませんね。

小園 自分の良さはテンポ良くストライク先行のピッチングができることですが、センバツではその自分らしさを全く出せませんでした。夏こそは自分のピッチングができるように、これから意識して取り組んでいきたいです。

――夏の甲子園を目指すには、まず県を勝っていかなくてはなりません。勝ち上がれば再び智辯和歌山と対戦することになります。5度目の対戦がかなえば、どんな部分がポイントになると思いますか?

小園 去年勝てたからいいのではなくて、少しでも気を緩めてしまうと、智辯和歌山はそこに付け込んできます。相手よりも常に強い気持ちを持って戦わないといけないということを、この春は感じました。細かいコントロールを良くすることもそうですし、自分の方が絶対に上だという自信を最後まで強く持てるかも大事だと思います。

――夏は中学時代からバッテリーを組んできた捕手・松川君と甲子園を目指す最後の大会にもなります。小園 高校に入って、この2年半は色んなことがあったんですけれど、(松川)虎生はもちろん、このチームで日本一になりたいという気持ちは変わらないです。夏は負けられない試合が続きますが、これから夏に向けてしっかり準備をしていきたいと思います。

――最近作ったというグローブには“エースたるもの”と刺しゅうしていますが、その言葉に込めた思いって?

小園 半田先生(監督)に言われた言葉ですし、背中でチームを引っ張っていかないといけないと思っているからです。この夏は先頭に立って自分のピッチングが出来るようにしたいです。

 

大注目を集めてのセンバツでの小園投手のマウンドは、小園投手が今まで未知だった世界を切り開いてくれたのかもしれない。初めて投げた大舞台での極度の緊張や、本領を発揮できなかった悔しさ。今年に入り、悔しい思いをしたマウンドの方が多いかもしれないが、そういった経験を力に変え、結果として示すことができるのは夏だ。自分の力はまだこんなものじゃない。灼熱の青空を突くような、周囲をアッと言わせるようなピッチングを、この夏、必ず見せてほしい。

※撮影=野崎純一
※初出=「がっつり!甲子園2021」(日本文芸社刊:2021年7月5日発売)

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