優勝争いや負けられない場面、パフォーマンスを上げるためマウンドで何を思うのか? 巨人、高梨雄平投手の連載日記「ナシさんのアリな話 鉄腕奪取」第8回!

第8回 プレッシャーがかかる時、パフォーマンスアップのための思考法とは?

「長い視点」を持つことの大切さ

ラブすぽ読者のみなさん、読売ジャイアンツの高梨雄平です。前回のコラムではいわゆる「プレッシャーのかかる場面」と僕がどう向き合っているのかを紹介しましたが、今回も引き続き、日々の重圧(と呼ばれるモノ)とどう付き合い、プロ野球選手として過ごしているのかを書きたいと思います。

高梨雄平

優勝争いや負けられない試合といった「プレッシャーのかかる場面」。そういうシチュエーションに置かれたとき、意外と見落としがちなのが「自分の状態」です。シチュエーションに囚われるあまり、自分がどういう状態なのか――。調子が良いのか、悪いのか――。体力があるのか、疲れているのか――。そんな肝心な部分に目が向かず、結果としてパフォーマンスが出せないケースって、プロ野球選手でも意外とあるんです。

たとえばエネルギーがあってフレッシュな状態――。これを書いている自分がまさにそうなんですけど、そういう時は逆に小さなことでつまづきやすい。バイクに例えればフルスピードで走っているときのほうがちょっとした段差や石が大事故につながる恐れもある。だから、そういう時はいつも以上に注意して、フルスロットルになりすぎないように気をつける必要があるんです。そのために意識しているのが毎日を「開幕」だと考えること。できるだけ「長い視点」で自分のことを見られるようにすれば、飛ばし過ぎることもないし、先のことも考えることができる。これには、リリーフとして重要な「切り替え」をしやすいメリットもあります。毎日が開幕であれば、すべてがリセットできるし、フラットになる。

ただ、僕も人間ですから分かっていても切り替えができないことはあります。たとえば前回のコラムで書いた菅野(智之)さんの勝ち星を消してしまった試合。これも、正直に言うと翌日まで引きずってしまっていました。人の勝ちを消してしまったときは、どうしてもそういうことが起こりうる。そんなときはどうするのか――。別に引きずったままでいいんです。無理やり切り替える必要はない。だって、それをしても結局は本当の意味で切り替えることなんて、できないから(笑)。

そこまでいくと自分ではコントロールできないので、そこはもう「時間が解決してくれる」と思ったほうが絶対にいい。僕は、そう思っています。どうしようもないことに時間を割く必要はないし、それならその時間を自分がやれることに使ったほうがはるかに効率的で、パフォーマンスも上がり今の自分に繋がるはず。

高梨雄平

成功と失敗、どちらも想定する

もちろんこれは、僕自身が本来持っている性質も大きく関係していると思います。もともと、「プレッシャーのかかる場面」が嫌いなタイプではないし、むしろそういう場面はテンションが上がるほう。でも、高揚はするんですけど、頭の中は「ここで抑えたらヒーロー!」みたいな成功のシミュレーションだけじゃなくて、失敗することもちゃんと想定するんです。だって、「失敗すること」って誰だって絶対にあるじゃないですか。別にリターンだけを取ろうと思っているわけではなく、リスクも織り込み済み。その上で「プレッシャーのかかる場面」と向き合う。

そこで緊張してしまったり、重圧でパフォーマンスを出せない人って、自分の中で「腑に落ちてない人」なんじゃないかなと思うんです。その場面にたどり着くまでに、自分が何をやってきたのか、準備はしっかりと出来ているのか……さらに言えばその上での「無意識の大丈夫」もあると思っています。自分が意識してない部分でどれだけ「大丈夫」と思えているか。これもたぶん個体差があるので、むずかしいんですけど……僕の場合はメチャクチャ考えて、あらゆる結果を想定してから臨む。どうやって「腑に落ちる」ところまで持っていけるのか。そこまでやるから自分ではコントロールできない「結果」を気にしないでいられるのかなと思うんです。

ただ、実はこの「結果を気にしない」も実はちょっと複雑で……(苦笑)。自分で言っておいてなんですけど、場合によっては結果を「気にした方がいい」こともあります。物事ってほとんどのことが白か黒かで分けられるモノではなくて、結果にこだわるか、こだわらないか、もそう。グレーゾーンの中でグラデーションのように結果に「こだわる」「こだわらない」が存在する。どこをセレクトしていくかも自分で判断しなければいけないんですけど、たとえば「結果を気にしたほうがパフォーマンスが上がる」人だっていますよね。そういう人は、むしろ意識して「結果」にこだわったほうが良い。もちろん、その逆もあります。

大切なのはミスという「結果」を回避することではなくて、何がダメだったのかを検証して対策を立てて、すぐ次にトライすること。「フラれたくないから告白しない」が本末転倒な愚策(次につながらないという意味で笑)なのと同じように、トライ&エラーを繰り返すことが最終的には成功につながる。

高梨雄平

ポストシーズンがメンタル的にむしろ楽な理由

ちょっと、野球の話から逸れちゃったので、軌道修正しましょう(笑)。たとえばレギュラーシーズンとポストシーズン。一般的にはポストシーズンのほうが「失敗が許されない」シチュエーションだと思われているでしょうし、実際にそうなんですけど、僕の場合、マインドとしてはポストシーズンのほうが「楽」な部分があるんです。なぜなら、成功しても失敗してもそこで終わるから。

もちろん、「失敗したらダメ」なのはポストシーズンなのかもしれないけど、一方で「誰もが失敗することがある」のも事実。だから僕には「失敗したらダメ」という思考がないんです(もちろん、失敗しないための最善の方法はつねに探っているし、実践したうえでの話です)。だから、どんな形でも「ここで終わる」というポストシーズンはメンタル的にはむしろ楽なんです。

こういう話を友人にすると「いや、分かってはいるけど、そんな簡単なもんじゃないでしょ……」と言われるんですけどね(苦笑)。ただ、僕のようなマインドセットの方法論は絶対にあるし、それはまた、このコラムでもお伝えしようと思います。

高梨雄平

次回もお楽しみに!

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