ベクレルの発見した放射線が「量子力学」のはじまりか?
フランスの物理学者アンリ・ベクレルは、「放射能」の名付け親であるマリ・キュリーの大学院での先生でした。放射能を最初に発見したのはベクレルでしたが、この人、実ははかなりの強運の持ち主。
もともとベクレルは蛍光物質(太陽に当てるとそのあとで光る物質)を研究していました。1896年、蛍光物質だと目星を付けていたウラン塩を太陽に当てて実験しようと待ち構えていたのですが、あいにくパリは曇り……ぜんぜん実験ができない。ベクレルはあきらめて写真板(当時の写真フィルム)を黒い紙で包み、ウラン塩と一緒に注意深く引き出しにしまっておきました。
数日後、天気は回復。さっそく実験のために黒い紙を開いて写真板を手に取ると、ウラン塩の形が写っていた。つまり、太陽に当てていないウラン塩が、「何か未知のものを放射して」写真板に写っていたわけです。ベクレルはこのときにウラン塩が放射線を出すことに気付いたのです。これに興味を持ったマリ・キュリーは、この放射線を出す物質を調べてウラン以外にもトリウム、ポロニウム、 ラジウムを発見。その功績で1903年、ベクレルや夫のピエールとともにノーベル物理学賞を受賞したのです。
放射線や原子の構造自体がよくわかっていない当時、この発見を公表するのは大きな勇気が必要だったでしょう。なぜなら、それまでの物理学の多くは、目に見えるものに関する学問だったからです。人は「見えないもの」の存在を疑います。目に見えない原子の構造、そこから出てくる目に見えない放射線、そんなあいまいな世界に勇気を持って踏み込んでいったのが、ベクレルだった。そしてそれは、人間には見えない小さな小さな世界の出来事を説明する「量子力学」のはじまりでもあったわけです。
ベクレルの没後、1975年に行われた物理単位(メートルやキログラムなど)の見直しでは、放射能の強さを表す単位をベクレルの功績をたたえて「ベクレル(Bq)」としたんだね。各種の装置を開発して、いまでは「見える」放射能の単位として、それを初めて見た人の名前ベクレルが刻まれているよ。
アンリ・ベクレル(1852〜1908年)
フランス生まれ。物理学者。放射線を発見したことで、1903年ノーベル物理学賞受賞。
ベクレルの初めの予定
日の光に当たっていないのに一緒にしまっておいた写真版にウラン塩の像が写っていたことをベクレルが発見。これが「放射能」発見のきっかけとなるが、それはまた人間が目にすることのできない極小の世界を導き出す「量子力学」のはじまりともなった。
マリ・キュリーは、ベクレルの発見したウラン塩の放つ透過光線(放射線)がエネルギー源に頼らずウラン自体が放射発光することを確認し、その放射を「放射能」と命名する。また、そうした放射能を持つ元素を「放射性元素」と名付けた。マリは女性初のノーベル賞受賞者で、初の2度の受賞者。
マリ・キュリー(1867〜1934年)
ポーランド生まれ。物理学者・化学者。1903年、師匠のベクレル、夫のピエールとともにノーベル物理学賞受賞。その後1911年にもノーベル化学賞受賞。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 量子の話』著:久富隆佑、やまざき れきしゅう
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 量子の話』
著:久富隆佑、やまざき れきしゅう
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公開日:2025.01.29