六本の腕で六道の衆生を救い出す! 観心寺「如意輪観音」の憂い顔に隠された祈り【眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話】

女性的で憂い顔、眼差しを伏せる特異な坐像!

皇后がモデルと噂された一面六臂像 ── 如意輪観音菩薩坐像

 如意輪観音(にょいりんかんのん)とは宝珠と法輪で衆生の願いを叶える観音様という意味で、如意輪とは如意宝珠と如意法輪の合成語である。したがって、2つの教えによってどんな悩みも消し去り、あらゆる願いを叶える仏像として祀られる。1つの体に六本の腕を持ち、うち2本の手にそれぞれ宝珠と法輪を持っており、もう1本は右手を頬に添え、右膝を立てて衆生を救う手立てを考えている所作だ。これは仏像としては珍しい

 ほかの観音に比べて、如意輪観音は丸くて、女性的な姿や形に彫像された作例が多い。大阪・観心寺、西宮・神呪寺、宇陀・室生寺の像が「日本三如意輪」として挙げられている。特に観心寺の「如意輪観音菩薩坐像」(国宝)は中でも代表作である。

 詳しく説明すると、6本の手のうち、第1の右手は頬に当てた思惟のポーズ、第2の右手は胸の前で如意宝珠、第3の右手は外に垂らして数珠を持つ。他方、第1の左手は掌を光明山(岩座・台座)に触れ、第2の左手は蓮の蕾を持ち、第3の左手で法輪を支える

 観心寺の像には補足情報がある。一見しただけで丸く彫像され、女性的な雰囲気を醸し出し、艶やかな香りが漂ってきそうな如意輪観音像に仕上がっているのだが、それもそのはずで、檀林皇妃、すなわち、第52代嵯峨天皇の皇后、橘嘉智子がモデルになったという噂があり、さもありなん、と納得するのである。

 なお、如意輪観音像は必ずしも観心寺の像のように一面六臂ではなく、二臂の如意輪観音像もあり、滋賀・石山寺、飛鳥・岡寺、斑鳩・中宮寺の観音像などが著名である。原則として、すべて半跏像か坐像で、まず立像は見かけない。

橘嘉智子=橘奈良麻呂の孫娘。奈良麻呂が藤原一族の仲麻呂と対立し、権力抗争に敗れて敗死しているが、嘉智子は生き抜く。嵯峨天皇との間に二男五女。仁明天皇の母となる。


如意輪観音菩薩坐像

如意輪観音菩薩は一面六臂。六臂とは6本の腕のこと。六道(天道・人道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道)にいる衆生救済の役割を象徴

観心寺 如意輪観音菩薩坐像

昭和26年(1951年)に国宝指定 / 大阪府河内長野市観心寺所蔵

如意輪観音は如意宝珠と如意法輪の功徳で衆生の苦しみを打ち破り、富をもたらし、願いをかなえるという観音。「如意」とは意の如く、ということだから、その法力を頼ってか、橘嘉智子(嵯峨天皇の后)が観心寺の本尊として、病弱の実子、のちの仁明天皇の回復を願って造像させたと伝わる。また、観音像は嘉智子本人をモデルにしたとの説も。造立は平安時代初期・承和10年(843年)が有力といわれる。榧の一木造りで彩色。像高109.4cm。


にゃん太:如意輪観音って、なんで片膝立てなのかな?
わん爺:あの座り方は、「輪王座」といって、仏の智慧で煩悩を止める姿勢というぞ。珍しい姿勢だが、実は、如意輪観音は空海が唐から持ち帰った「胎蔵界曼荼羅図像」の一部として描かれているというんだな。しかも、観音像のある観心寺は空海十大弟子の1人、実恵が創建して、やはり空海の弟子で、空海入定後、実恵から灌頂を受けた真紹が継承した寺という。つまり、如意輪観音は空海とつながりの深い観音菩薩なんだな。まったくもって空海の影響はすごいのう。


【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』著:鈴木 旭

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 国宝の話』
著:鈴木 旭


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